スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | ∧top | under∨
渇欲 60
2017-05-18 Thu 21:00


このお話はフィクションです
血縁者の設定ですが第三者の女性が登場します
予めご了承ください






隣に眠る男は
時折寝返りを打ちながら、静かな寝息を立て続けている



少しウェーブがかった柔らかい髪の毛を撫でながら、一人話しを続ける



聞こえていないはずの相手に
封印した筈の過去を打ち明けているのは何故なんだろう…



俺の中で
自分自身の縛を解きたい願望が生まれたからかもしれない



シム・チャンミンが与えてくれた温もり
それが、探し求めていた温もりに似ている気がする



亡き姉の…温もりに…






俺は内定していたシリコンバレーにある企業への就職を取り止めた



姉さんとお腹の中にいた我が子を母校のそばにある墓地へと埋葬した後、全財産を教会へ寄付して俺は米国を離れた



大学の先輩のツテを頼りに韓国での就職を決めたのだ
姉の忘れ形見であるフレアと共に韓国へと降り立った



そしてもう一人の忘れ形見…
姉がひっそりと産み落としたテミンを実父の元へ連れ帰る



その事を
これから始まる姉の居ない虚しい日々を生き抜くための目標にした



俺の甥である彼
甥であるという血の繋がりよりも、俺の愛した人の子供だから



韓国での俺の就職を斡旋してくれた先輩に、偶然にも姉のいた旅行会社に知り合いがいたため
姉が妊娠した頃によく接待していた財界人を調べてもらっていた



それと同時に俺自身も
テミンを韓国へ呼び寄せるための基盤を整えることに専念した



レジャー産業から多方面に事業を拡大し始めていたテソンという企業へ勤めた俺は
先輩の推薦もあって、瞬く間にトップの人物にも顔を知られるほどになる



一代で自身の会社を韓国有数の企業へと育て上げた代表は、親の仕事のために日本で生まれ育った
日本のトップの大学を卒業するほど優秀で、親と死別した時に母国に戻り起業した人物だった



自分と同じ様に外国の大学を出た俺を可愛がってくれて、一人で暮らす清潭洞の屋敷にもよく招いてくれて美味い食事を食べさせてくれた



ある日その屋敷に招かれた時
代表に急な案件で電話がかかり、俺と一緒に寛いでいたリビングを出て行った事があった



手持ち無沙汰になった俺は椅子から立ち上がり、リビングに掛かる大きな絵画を見て回る
その時、部屋の隅に置かれた小さな額が目についた



壁に飾られた有名画家の作品とは違い、それは明らかに素人が描いたと思われる稚拙な絵で
描かれているのはシンプルな紫色の花の絵だった



“誕生花である紫蘭の様な慎まやかな君”



絵の隅に書かれた小さな文字を食い入る様に見た後、ふとその花に見覚えがあることに気づく
姉さんが自分でオーダーして愛用していた便箋の絵柄の花によく似ていたのだ



〈ユノ、聞いて。
私ね、昔から紫色が好きだったのは誕生日のお花が紫色の蘭だったからかもしれないわ。

いつか…遠く離れた日本で咲く紫蘭という花を一度見て見たい〉



そして、そう言ってパソコンで紫色の花を見ていた姉の言葉も思い出した



代表が戻るのと同時に、俺の携帯電話が鳴り始める
代表に目礼をして通話ボタンを押すと、それは米国の先輩からかかった国際電話だった



〈ユノ、お前の姉さんが一時期付きっ切りで接待していた財界人がいる。シリコンバレーの企業が招いた韓国のレジャー産業の会社の社長だ。

テソングループの代表が、お前の姉さんを専属通訳にして連れ歩いていたらしい〉



身体の中心を稲妻が走った様な感触がした



俺の事を目にかけてよくしてくれている、目の前で柔和な笑みを浮かべ座るこの人物…
彼こそが姉を妊娠させ、その事実も知らずにその場限りで姉を見捨てた男だと知った



独身で身寄りが居ないということで
同じ境遇の俺を可愛がってくれたこの男が…



信じられないという思いと、それくらいの非道さがなければ一代でここまで会社を大きく出来ないという思いが交差する



〈どうしたんだね、チョン君。
顔色が良くない、座りなさい。水を持って来させよう〉



俺の背を支え椅子へと座る様促す代表
確かに…テミンの顔立ちは姉によく似ていたが、丸めの鼻は代表に似ている気もした



『代表は絵もお描きになるんですか?』



代表の目が隅に置かれた額に動く



〈いや、なに…戯事の様なものだ〉



その言葉の本意は、絵の出来栄えを自嘲する言葉だったと思う
しかし俺には、姉との事がそうだったと言ってるように思えてしまった



そして、この日から俺は
姉の忘れ形見であるテミンにこの男の財産全てを遺そうという画策が始まったのだ



自分を偽り、全てに打ち勝つ揺るがない心を持つ
感情というものは姉と我が子ポラと共に地中へ置いてきたのだ
俺は…自分という存在を硬く閉ざして生きてきた



数年後
身寄りが居ないと嘆いていたテソン代表の養子になる事に成功した俺は、病床の代表にあなたには血を分けた実子がいるのだという事実を告げた



我が子がいるのに、他人である自分に育て上げた会社を奪われる思いはいかがかと尋ねた時
代表は声にならない声を酸素マスク越しに叫びながら、俺の腕を掴み息を引き取った



死にゆく者へ、あえて残酷な事実を告げたのは
俺の叶わなかった願いが、この冷たくなった男には叶えられているという事への嫉妬があったのだと思う



姉と俺の子は
生まれてくる事も無く、その母と共に冷たい土の中で眠っている



姉とこの男の子は
両親が誰かわからない境遇ではあるものの、その生命をこの世へと送り出してもらえたのだから



米国に迎えにやらせたテミンをこの地で迎え入れた時
俺の秘書になった先輩であるジェウンに、逆に自分との関係性は伏せて事情を話させた



幼かった頃俺の腕の中で嬉しそうに遊んでいた記憶が、昔の事過ぎて残っていない事も幸いし
テミンは俺を実の父親から全てを奪った憎き相手と認識した



書類上での兄弟だと、作られた関係をそのまま理解して
子供そのもののあどけなかった顔つきに、憎しみの顔を自然と浮かべさせた



控えめだった姉…
全てにおいて自分を犠牲として、その人生を俺へ捧げてくれた姉…



その姉の性格に、テミンが似ていると困るからあえてそうしたのだ



愛しい人の忘れ形見であるテミンが成長した時
これ以上ないくらいに大きくしたこの会社を渡そう…その言葉は伝えずに、彼を突き放した



自分の目で、頭で、手で
全てを理解し掴み取れる実力があれば、俺からテソンを取り戻せばいい
そう言って、掴みかかってきたテミンの腕を振り払った



俺に抱きついて離さなかったテミンの小さな手は
もう一人前の大人の大きさに成長している
死にものぐるいで働き、俺を育ててくれた姉の子であれば…きっとテミンは大丈夫だろう



成長してきて姉にますます似てきた彼を見るのは辛く
時折彼につけた執事からその日常を聞いていたが、テミンに会う事をせず逃げてきた



結局は、俺が一番の弱者なのかもしれない



その答えに行き着いた頃
夜明けを迎えた事を知らせる朝焼けが、目の前の窓いっぱいに広がり始める



明るくなり始める部屋の中でこの男が目覚める時
今朝は、どんな第一声をあげるのだろうか



いつの間にか俺の縛を解き、するすると中に入り込んだシム・チャンミンは
俺がせっかく話した大スクープを聞く事もなく、俺の腕の中でもう一度寝返りを打った







にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト
別窓 | 渇欲 | ∧top | under∨
| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。