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渇欲 54
2017-04-23 Sun 21:00


このお話はフィクションです






不安や迷い、そして怯えという感情があると
人間というのは、決まって悪夢を見るものだ



あれだけの暴行を受け恐怖に震えた日の翌朝
俺は悪夢を見るどころか、夢という夢を全く見ることなく目が覚めた



そんな俺の目には見た事がある天井が映る
首を横に向けるとそこには、両手で枕を抱え込む様にして眠る男の姿があった



いつもは流し固めている黒髪がさらさらと横に垂れ
射抜くような鋭い眼光を見せる漆黒の瞳も瞼に隠されている



チョン・ユンホの寝顔…
威風堂々とした普段の姿からは想像出来ないほど、柔らかな印象を受ける



すーすーと規則正しい寝息を立てるこの男の隣で眠ったという事が
酷い目に遭った俺に穏やかな眠りを与えてくれたんだろうか…



昨夜
俺は【紫蘭】へと単身乗り込んでいった



と言っても、取材のために果敢に攻め込んだわけではなく
俺がチョン・ユンホの物だと言われているという
噂の威力を試したかっただけなんだけれど



その威力云々ではなく
結果的には、標的である筈の男に惹かれているという事実に気づいただけだった



ただ黙って、俺の肩を抱き寄せたチョン・ユンホ



ヤツの体温で
ヤツの匂いで
俺は、言いようのない安堵感に包まれた



車で来たであろうチョン・ユンホの羽織っていたコートは冷たいままで
ヤツが…俺を包んでくれたその温もりが、コートに移る間も無いほどの短時間で来た事を予想させた



俺が乱暴されたと知らされて急ぎ駆けつけたんだろうか…



身体の相性が良い愛人だから?
お気に入りの愛妾だから?
それとも……



ふと睫毛に触れてみたくなって手を伸ばすも
そんな恋人みたいな事をしてどうなるのかと我に返り、その手を止めた



ヤツにとって俺は…目新しいオモチャ程度だろう
愛人?愛妾?なんて言われてるけれど、それ以下の存在かもしれないんだ



俺がチョン・ユンホを想う気持ちも…
そもそも一時的なものかも知れない



以前何かの取材の際、心理学者に聞いた事がある



人間というのは生理的覚醒状態、つまり脈拍が上がり心臓がドキドキする様な事があった時
異性が近くにいるとその相手に対してドキドキしていると錯覚する事があるらしい



相手が魅力的だった場合、より一層その錯覚が起きやすい



俺の場合、相手は同性だったけれど
そんな状態に当てはめるとなんとなく合点が行く



こんな男に…いや、言い方が違うな
こんなすごい男に…恋心なんて持ったってしょうがない



恋の様な感情は
錯覚だと思った方が賢明な判断だろう



コツン
カツッ、カツッ



ふと、部屋の扉の所で音が聞こえて物思いから現実に戻る
眠っているヤツを起こさない様にそっとベッドから出て、扉を開けた



するとヤツの愛犬フレアが扉の前で座っていた
恐らくは長い前足の爪で扉を叩いて鳴らしたんだろう



さっきの音は、ドアを開けてという彼の控え目な合図だったらしい



「フレア。どうした?ごはんかな」



じっと見上げる彼に尋ねながら、前日に来た時の記憶を辿りながらリビングへ向かう
フレアもそんな俺について来た



キッチンに一緒に入ると
フレアは食器棚などが並んでいる場所の前で、その長い鼻先で一つの棚を突くようにしている
その扉を開けると、そこには彼のフードが入っていた



「お前賢いなぁ!これが食べたい、って言うんだな?」



犬は飼った事がないけれど、彼は相当頭がいいんだと素直に感動してしまった
フードのパッケージで分量を確認して、この前教わった様に彼専用の台へと置いてやった



キッチンを見渡すと今日は週末だからか、キーパーの人が作るという朝食らしき物は見当たらない



冷蔵庫を開けて朝食に出来そうな材料をピックアップする
大学の時にレストランでバイトしていたから、こういう事は得意なんだ



新鮮そうな葉野菜を洗ってちぎった所にトマトをサイコロ状に刻んで加え
オリーブオイルとバルサミコ酢に、ブラックペッパーを振って作ったドレッシングで和える



ほうれん草はスライスベーコンがあったから、それに卵を加えて炒めた
パンをスライスしてトースターで焼いていると、リビングのドアが開く音がした



『いい匂いだ』



ラフにボタンを止めたシャツを羽織ったチョン・ユンホが、片手に新聞を持って部屋へ入って来た



「あ…悪りぃ、勝手に冷蔵庫を漁ったから。もうすぐ出来るからさ。あ、コーヒー飲む?」



なんとなくヤツの顔を見る事が出来なくて
ヤツが返事するタイミングを掴めないくらいの早さでまくしたてた



この男に…甘えてしまった自分を
そんなわざとらしい態度で隠してるんだ



そんな事もお見通しらしく
チョン・ユンホは少しだけ口元を横に動かして椅子へと腰掛けた



『コーヒーはカフェオレにしてくれ。砂糖は二杯。次からは黙って淹れて持って来い』



そんな傲慢な言い方をヤツがしたのもきっと
俺がどう接していいか困っている事への配慮だと、この時はまだ気づく余裕はなくて



「はぁ?!あんた何様だよ?っていうか、俺はあんたのハウスキーパーじゃないし」



こんな風に自分らしさを取り戻し、いつもの勢いでヤツへと返しながら
言われた通りに作ったカフェオレを持ってヤツの元へと運んでしまう



『じゃあ何だったらいいんだ?』



そう言いながら、俺の腰を引き寄せて自分の膝に座らせるチョン・ユンホは
やっぱり、俺が思うよりもずっとずっと上手の相手だ



「やめろって!パンが焦げるっ!」



何だったらいいんだろう…
その答えを考える事もヤツに全部読まれてる気がして、慌ててキッチンへと逃げ帰った



ダメだ
なんか俺…やっぱり変だ…



あの男の前では
嘘をつく事も、取り繕う事も、虚勢をはる事も
何もかもが通用しない



どんな自分が、本当の自分なのか
それは客観的に見た事がないからわからないけれど
何故か…ヤツ前だと自然に振る舞えている気がしていた



「お、そうだ。
フレア、お前にも卵焼いてやんなきゃな」



フレアに話しかけながら、皿に乗せた朝食を無造作にヤツの前へと置いて再びキッチンに戻る



『ありがたく頂こう』



胸の前で十字を切りフォークを持ったヤツの姿が横目に入った



ふーん、クリスチャンなんだ…



フレアに味付けなしのスクランブルエッグを作って彼の食卓へと置いた後
自分の分の料理とパンを乗せてコーヒーを持ち
ヤツが食べている前の椅子へと腰掛けた



「フレアってさ、頭良いのな。
ごはん食べるって自分でアピールして、その場所まで教えてくれたんだよ」



何を話していいのか分からない時
優雅に一口ずつフードを食べているフレアの話題はちょうど良かった



人間らしい感情を持っていなさそうなヤツも
フレアのために大きなベッドを買ったりするくらいだから、きっと可愛がっているんだろうし
お姉さんの預かりっ子だって言ってたから…



『そう言うと聞こえはいいがな。犬の分際で人間を使うんだ、あいつは』



そう言って
チョン・ユンホはフレアの方を見てから俺へその目を向ける



『お前も早速使われただろう?
ごはんはここだぞ、教えてやったから用意しろってな』


「確かにそうだな」



さっき見たフレアの一連の動作
そこへヤツの話したセリフが重なり頭で再生されて可笑しくなった



「今日はキーパーさん来んの?フレアの散歩はあんた行ってやるのかよ。今日休み?」



俺がそう言うと、ヤツは目を細めて何故か笑った



『シム・チャンミン。
言葉を話す時は一度頭の中で整理してから話せ。それから主語を省略するな。

…それとも、俺とはもうツーカーだと言いたいのか?』



ふと伸びて来たチョン・ユンホの指が俺の口の脇を拭った
食べながら喋ったせいで、飛び出したケチャップが付いていたみたいだ



ケチャップが付いた指をヤツは自分の舌で舐める



およそ上流階級の人間がする様な行為には見えないそれは
チョン・ユンホから与えられる官能を呼び起こしてしまうような…



朝には似つかわしくない
そんな妖しげな行為に見えた






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