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渇欲 51
2017-04-06 Thu 21:00


このお話はフィクションです






金曜日の長い夜は
傷に染みる消毒液に顔を歪める事から始まった



自分で手当てをする俺を見ながら、数台のパソコンを起動させカチャカチャとキーボードを叩き始めたLucifer



この男は毎夜ここで何をしているんだろう…



〈これでよし、と。
あの店の寿命は今夜限りだろうなぁ〉



細い脚をデスクに乗せて背もたれに寄りかかる姿は、精一杯悪ぶる優等生の動作に見える
俺が見た限り、Luciferは品の良い服を着て上等な椅子に座っている方が似合う気がして



「あの店って、さっきの男の?」



ヒビの入った鏡を見ながら口元に絆創膏を貼り、Luciferへ尋ねる



〈そうだよ。あんな暴力野郎がこの街にいちゃダメだと思うし〉



こんな見た目の不良少年には、意気がって無理に吸うタバコの方がそれらしいけど
Luciferは棒のついた飴玉を咥えていて、それをしゃぶりながらチラッと俺を見た



〈帝王のお気に入りを痛めつけるとどうなるのかっていうのも、ちょっと見てみたいから〉



“悪さをする悪戯っ子”
そんな表現がぴったりな顔をするLucifer



「あのさぁ、お前何を知ってるのかわかんないけど。
狎鴎亭の帝王とか、お気に入りとか、ホント何なんだよ」



薄々は気づいているけれど
こんな風に言った方が、コイツもさらっと本当の事を言ってくれると思った
…あの掲示板に書き込んでいる主だと思ったから



〈この国は完全なネット社会になっちゃったでしょ?SNSやリアルタイムのチャットには色んな情報が溢れかえってて…

その情報がデタラメでも事実でも、面白ければいいっておかしな世界だよね〉



そう言ってペロリと舌を出す



〈シムさんも、もう有名人だよ。
ウェブニュースを作ってる割に、ネットの情報に疎いんだねぇ〉



そう言ったLuciferは傷の手当てを済ませた俺に手招きをする



やつの示した画面を見るとそこには案の定
俺がミノから教わって見ていた地域の掲示板が表記されていた



“帝王に本命の恋人か?!”
“背が高くてイケメンの男妾を寵愛中”



そんな書き込みが無記名で羅列している



「何だよ、これ…」



自分の事を書いていると思えない、そんな文章に呆れ果てる



“大変だよ!!帝王の城の目の前でお気に入りがボコられてた!”



その書き込みがされた後
燃料を投下されたかのごとく、秒単位で次々と書き込まれていくチャットを見て驚いた



〈僕が書き込んだの〉



そう言って、Luciferはもう一度ペロリと舌を出した



〈シムさん。自分ではあいつの正体を暴く、って意気込んでるんだと思うけどさ。
シムさんはもう、あっちの人になってるんだよ〉



Luciferは子供みたいな顔から急に表情を消し、いきなりそんな事を言った



〈でも。僕はシムさんの書く新聞好きだよ。
あいつの正体に少しでも近づいてくれるって信じたいんだ~〉



相当な気分屋らしいLuciferは、その後どう声をかけても生返事しか返してくれなくて
【紫蘭】の開店時間もとうに過ぎていたから、助けてくれたお礼を言って地下室を後にした



この男から情報を引き出すには相当骨が折れる…なんて思いながらいつもの場所に戻る



つい一時間前に、俺が屈強な男から暴力を受けた場所
いつも賑わっている隣の飲み屋は、開店準備をしていたさっきの繁雑さが嘘みたいにひっそりとしていた



「あんたの店の敷地には入ってない」
さっきはそう言ったけど、あまりの事に驚いて店の入口に行ってみる



店の入口は開いていて中を覗いて見ると
あちこちに椅子が転がり、グラスや酒が散乱していた



〈帝王のお気に入りを痛めつけるとどうなるのか楽しみ〉
そう言っていたLuciferの言葉が脳裏をよぎり、全身が総毛立つ



俺はいつも定位置に座らず、その足を【紫蘭】へ向けた



俺なんかが入れない事は分かってる
でも
Luciferの言う〈帝王のお気に入り〉がどれ程の威力を持つのか、試してみたくなった



重厚な石造りの門構え
【紫蘭 Hyacinth orchid】と小さく刻まれた入口…



その脇に立つ黒服の男の目の前に立ってみると
男は怪訝そうな顔で俺を見るなり、あからさまにその顔色を変えた



突然の事にどう対処していいのか迷ったらしく一瞬目を泳がせたものの、トランシーバーで何か連絡を取っている



俺が誰なのか、見るだけで分かったって事だよな…
自分の知らない所で自分が知られている事実を目の当たりにした



《こんばんは、シム・チャンミン様。急なお出でで驚きました》



ヤツからここの店を任されるだけの事はあるんだろう
彫刻の様にきれいな顔をしている支配人、イ・スヒョクが平然とした表情で現れた



《今夜は何かお召し上がりになられますか?》



俺を店へと案内する様に手を差し出し聞いてくる



「こんな格好だけど入れんの?
ここで払えるだけの持ち合わせなんかないけど」



ヤツが貸してくれたタートルネックのセーターにジーンズを着てる俺は
どう見てもカジュアル過ぎてこの店には到底似つかわしくない



挙げ句の果てには顔にあざを作り絆創膏が貼られて、羽織っているコートはさっきの乱闘ですっかり汚れていた



《どうぞ、こちらへ》



彼のその単純な返事は
それ以上聞いても、細かい事は何も言わないと予期させた



イ・スヒョクの後に続き、店の奥へと進む
通されたのは、俺がヤツに以前抱かれた部屋だった



《すぐご用意致します》



モデルの様なその見た目に似合うきれいなお辞儀をして、彼は下がっていった



「狎鴎亭の帝王のお気に入りか…」



少なくともヤツの持ち物であるこの店の人間が、俺を知っているのは仕方ないって思う
だけど…Luciferが書き込んだ事で、あの飲み屋がどうにかされたんだという事に動揺していた



ボーイではなく支配人であるイ・スヒョクが自ら酒を運んでくるのも
俺が狎鴎亭の帝王…チョン・ユンホの“愛人”で“男妾”だからか



《お怪我が大した事がなくて何よりでございました》



そう言いながらグラスにアイスを入れるこの男の言葉が、全てのことを物語っていた



俺が誰とどこで何をしていたのか
この店の中にずっと居たはずのこの男が知っている
見えない力が、動いているんだと思った



「おかげさまで。ボクサー崩れなんですかね、随分といいパンチでしたけど」



彼の作ってくれたウィスキーを口に運ぶ
チョン・ユンホが美味しいと言っていた銘柄の酒が口元の傷に染みた



《程度の悪いチンピラが何かで金を手にして店を出したんでしょう。
きっと今頃は、どこか冷たく暗い場所で凍えているでしょうが…》



やっぱり俺を殴ったせいで
あの男はどうにかされたんだ…



凍えている、と言ったイ・スヒョクの表情の方が
陶器の様に冷たく、生きている人間のものとは思えなくて
自分の置かれている状況への恐怖を感じた



チョン・ユンホ…
俺がターゲットとしている男がどれだけの存在なのか、どれだけの力を持っているのか



その事実を突きつけられた気分だった



『あの辺り一帯は俺の物だ』
そういえば、以前ヤツがそんな事を言っていたっけ



その時は何て大袈裟な事を言うんだろうと思ったけれど
今日の事を考えると、ヤツの言う事は嘘なんかじゃないと痛感する



そして俺という存在も…
チョン・ユンホの所有物の中に組み込まれてしまったんだ



作ってもらったウィスキーの水割りを飲み終わる前に
知らせを受けてやって来たらしいヤツが部屋に入ってきた



『いい男が台無しだ…』



革の手袋を脱ぎながら俺の口元に手を添えるチョン・ユンホ
その深い眼差しに吸い込まれそうになる



めちゃくちゃに殴られた事も
殴った男が店ごと姿を消した事も



ちっぽけな存在である俺には、大きな衝撃で



チョン・ユンホのそんな深い眼差しを見て、なぜか安堵してしまった俺は
この男からのに逃れる術はないという“事実”に
気づいてしまった



大きく広げられたチョン・ユンホの腕の中に
安らぎを求めている俺がいたんだ






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