スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | ∧top | under∨
渇欲 56
2017-04-29 Sat 21:00


このお話はフィクションです






「うわっ!フレア、速いってば!」



週末とはいえ、この寒い時期の乙旺里(仁川広域市にある海水浴場)には人っ子一人いない



車から降りて早速念願の散歩をし始めた俺は
ご機嫌なフレアの全速力での疾走についていけず、砂浜で見事に転んだ



フレアはそんな俺を気にもとめず、リードをぶら下げながら自分の好きなペースで走って行ってしまう



『フレア、Come!』



車を駐車場に停めた後、俺の後ろからついてきていたチョン・ユンホがそう声を掛けると
フレアはヤツの元へとあっさり戻って来る



『ダメだな…若いくせに脚が全くついて行ってなかったぞ』



転んだ俺の手を引っ張って、立たせてくれたヤツが笑いながら言う
ヤツの指が俺の頰に触れた



『砂が……』



どうやら転んだ際についたらしい



俺の顔についたそれを払いながら
その指は顎を掬い取って、柔らかな唇の感触を誘った



冷たい潮風が、重なる唇に潮の香りも届けてくれる



なぜ…
今日の口づけはこんなにも優しいのだろう



足元で大人しく伏せたフレア
彼のリードを持ったチョン・ユンホのもう片方の手が、俺の腰を引き寄せる



官能を呼び起こす様な深いそれではなく
身体の奥に、妙な感情を際立たせる様な優しい口づけ



これじゃ、まるで…
……いや、そんな事があるわけ無い



「もう一回、散歩し直す!」



自分の存在定義を勘違いしてしまいそうで
抱き寄せられたヤツの腕から抜け出した



海岸沿いを、今度はリードを短く持って歩く
フレアは時折俺の顔を見上げながら、歩調を合わせて付いてくる



その後ろを
日差しが眩しいのか、チョン・ユンホが目を細めながら付いてくる



冬空の中でも
周りにはやけに穏やかな空気が流れているようで



それは
時の流れまでもがその針をゆっくり進めている様だった



この男と、こんな風に歩いている自分が信じられないけれど
それでも、今この時間を共有しているという事実



この男は…
この時を、この空間をどう思っているんだろうか…



俺とフレアの数歩後をゆっくり歩くヤツの顔を、少しだけ首を捻り覗いてみる



何だよ…何で微笑んでるんだ…



初めて見るヤツのそんな表情に、いつになく鼓動が早まる
くそッ…俺の体はどうなってんだ!



目が合いそうになるのを、隣を歩くフレアの頭を撫でて誤魔化す



『シム・チャンミン。
この先に俺の持ち物の店がある。そこで一休みしよう』



いつの間にか歩調を早めたチョン・ユンホは
いつの間にか隣に並び、顎で行き先を示す



海岸に大きくせり出す形のテラスを配した小洒落た建物が見えた
入口にはすでに来る事を知らされていたらしい従業員が頭を下げて出迎える



テラスに置かれている大きなテーブルとソファー
その横には暖をとるストーブも置かれていて
チョン・ユンホは俺の腰にスッと手を回し、その席へと座らせた



コの字型のソファーに並んで座る
真冬のテラスは寒々しいけれど、ストーブのおかげで寒さは感じなかった



従業員から水を貰ったフレアはそれを飲んだ後
足元に置かれたラグに優雅に体を横たえる
ここにはよく来るんだろうか?フレアのそんな様子から、来慣れている感じがした



『小さい頃から俺は海を眺めるのが好きでな。時間が出来るとここに来るんだ』



運ばれて来た暖かいスープを口に運びながら、ヤツがぽつりと言った



「あんたアメリカ育ちだよな。スタンフォード大学ってカルフォルニアだったっけ。海の側だもんな」



前に調べた事を言いヤツの話に合わせる



「カルフォルニアは太平洋でこの海は西海だから、海の色も違うんだろうけどな」



いつか写真で見たカルフォルニアの海は鮮やかな碧い海で、明るいイメージだけれど
冬の西海は静かな蒼い色で、ねずみ色の曇り空と似合うという印象だったから



『いいんだ、むしろ違う方がいい。
同じ色の海を見ると思い出したくない記憶も蘇る』



海を眺めるように置かれたソファーの上で、俺の手を握ったチョン・ユンホ
心なしかその手は震えていた気がした



ヤツの頭の中にあるアメリカの記憶は
お姉さんの死もあって辛いものなのかもしれない



俺に打ち明けようとしている訳ではないんだろうけれど、それを隠している様にも見えなかった



理不尽な暴行を受けてショックで震えていた昨日の俺
この男の温もりが傷を癒してくれた



今日は俺が
握られた手を…ヤツの大きな手を握り返す
言葉ではなく、手を握り返すという事で会話をしているみたいだ



『来週は忙しくなりそうだ。青瓦台がもっと慌ただしくなるだろう。
お前もあの事務所で泊り込む事になるかも知れんな…あのボロさでは隙間風が寒そうだ』



余計なお世話だ、そう思ったけれど
俺と同じで、ヤツもあえて憎まれ口を叩いてるのかもしれないって思った



「俺は…これからもあんたを追い続けるよ。
青瓦台の騒ぎの裏側にも…きっとあんたの顔が見え隠れしてくるだろうからな』



『情熱的だな、シム・チャンミン。
お前に追われるのならば、それはそれで悪くない』



握られた手はそのままに
チョン・ユンホは、もう片方の手で俺の顔を引き寄せる



『お前に追われて向かう先がたとえ地獄だったとしても、俺はこの手を離さんぞ。覚悟しておけ』



……それで構わない
俺はチョン・ユンホという監獄へと投じられる事を望んだのだから



今度は俺が
空いている手でヤツの顔を強引に近づけて、柔らかい唇を塞いだ



「望むところだ。あんたの全てを暴いてやる」



全ての事が向かう先にどんな答えがあるのか、それはまだわからない



チョン・ユンホという男の“真実”を知る事は
シム・チャンミンの“渇き”を満たしてくれるんだろうか



二人が進んでいる荊棘の道
その行き先が地獄か、天国か…
その答えは、俺自身が導き出さなければならないんだ



見つめる海に立つ波は、今は静かなままだけれど
いつ雲行きが変わり強い風が吹き大きな波を立て始めるかもわからない



今はただ…
この男と互いの体温を感じ、穏やかな空間を共有していたいんだ



歩き疲れたフレアがこくりこくりと眠たそうに目を細めているのを見ながら



隣の男の温もりを、ただひたすら心地よく感じていた俺だった






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト
別窓 | 渇欲 | コメント:8 | ∧top | under∨
渇欲 55
2017-04-26 Wed 21:00


このお話はフィクションです






この男に植え付けられてしまった官能は
俺の四肢を完全に絡め取っている様で



ヤツがただ食事をしているだけでも
その艶めいた唇が、俺の身体を疼かせてしまう



身体だけではなく
この男は、俺の心をもあっさりと掴んでしまった



自分の中にある渇いた部分が
チョン・ユンホという男によって満たされてゆくことが怖いんだろうか…



俺は……



『どうした?自分が作った料理の味付けがおかしいのか?俺は美味しく頂いているがな』



そんな俺の心を読んでか
あえてとぼけた事を言ってくるチョン・ユンホ



きっと今
俺はこの男を求めている様な顔になっていた筈で
途端に恥ずかしさが込み上げてきた



「いやっ、別にっ。そりゃあうまい筈だよ!
俺、レストランでバイトしてからな!」



ヤツの前ではどうもうまくいかない
しどろもどろになり、殊更大きな声で言い返す
そんな俺の元にフレアが寄ってきた



「ん?お代わりか?
俺はお前の食事係かよ。仕方ないなぁ~」



フレアの頭を撫でて立ち上がる
するとチョン・ユンホがコーヒーカップを突き出した



『お前の作るカフェオレの味は丁度良い』



チッ…
お前もお代わりかよ、全く
この男も俺を係みたいに扱いやがって…



「フレアはさ、いつまでここに居るの?お姉さんから預かってるんだろ?
俺、こういうデカイ犬と一回散歩してみたいんだけど」



小さい犬は友達の家で抱っこした事もあるけれど
こんな珍しい犬を散歩させたらさぞかし楽しそうだと思って聞いてみる



今日は休みだし
昨日の嫌な記憶も、この男への恋愛感情の様な妙な気持ちも
フレアと一緒に思い切り走って忘れたかった



『毎日散歩させてもいいぞ?お前は若いし、そこそこ体力もありそうだからな。フレアも喜ぶだろう』



カフェオレのお代わりを受け取って一口飲んだチョン・ユンホは
新聞を広げて、俺の視界から急に見えなくなる



『フレアの飼い主は死んだ。
彼は永遠に預かりっ子のままだから、いつでも連れて行って構わん』



え…?
何て言った?
お姉さんは亡くなったのか?



そう言えば…



〈シムさんにヒントだけあげるよ。
あいつには過去に失った大きな存在がある事。
その哀しみの反動が、全てを掌握しようとする原動力になってるって事を…〉



Luciferがそんなことを言ってたっけ
過去に失った大きな存在っていうのがお姉さんって事か?



「……えっ、ああ、そうなんだ。
じゃあ今日連れて行っていいか?俺、今日は休みなんだ」



この部屋の隅にひっそりと飾られていた写真を思い出しながら、お姉さんの事には触れずに訪ねる



なんとなく聞いてはいけない気がした
こんな俺でも…その事は深い事情があるって察したから



『取材は平日限定、週末はしっかり休むのか。まあ、メリハリあるというのはいい事だ

……俺も休みだから、車でも出そう』



は?散歩だって言ってんのに…
新聞を畳んだヤツは、すたすたと部屋を出て行った



よく分かんないけど
あいつとはいつも会話が噛み合っていないし、まあいいや



「食べ終わった皿ぐらい自分で下げろっつーの…」



チョン・ユンホが置きっ放しにしている皿を渋々片付けて、フレアの飲み水を新しく変えてやる



『これも俺には少し小さめなんだ。お前に丁度いいだろう』



前触れもなくいつの間にか戻ってきたヤツが、手に持ったものを俺に渡して寄越す



それは、紺色のシンプルなコートだった
肌触りが滑らかで心地よく、どうやらカシミヤだと思われる



『昨日の事でコートが汚れていただろう?それを着ていけ』



見るとチョン・ユンホも
普段の黒い三揃いのスーツ姿からは随分イメージの違う、カジュアルな服装に着替えていた



「スーツ姿が似合うヤツの普段着って、なんかゴルフウェアみたいだよな」



いつも流し固めている黒髪も、今日は朝見たまんまの洗いざらしの状態で
なんとなくドキドキしてしまう自分が情けなくて、嫌味っぽく言ってしまう



『スーツが似合うと言ってもらえて恐縮だ』



ヤツは俺の頭をぽんと叩いてから『フレア、行くぞ』と声をかけた



フレアの後に、俺も渡されたコートを羽織ってついて行く
チョン・ユンホはフレアの首に刺繍の施された太い首輪を付け、先に靴を履いた俺も一緒に玄関を出た



「ひゃー、駐車場もあんた専用のがあんのかよ」



専用のエレベーターに乗り地下に降りたつと
想像していた広い共有駐車場ではなく、数台しか停められない広さの空間が広がっていた



俺があの夜、目を奪われた黒塗りのベンツは無い
いつも秘書らしい男が運転して来てるから、あれは仕事用なんだろうか
フレアはそのうちの一台に向かって小走りに向かう



『あれはフレアの車なんだ』



その言葉を聞いて口をあんぐり開ける俺
その横を何事もなかったようにヤツが通り過ぎ、リアゲートを開ける
それを待っていたようにフレアが車に飛び乗った



『ほら、行くぞ』



いつまでもぽかんとしている俺の手を引き、座席へと座らせたチョン・ユンホ
リモコンで駐車場のゲートを開けて、車は走り出した



あの夜…
この男と初めて出会った時目を奪われた黒塗りのメルセデスベンツAMG
『フレアの車』と言っていたこの車もベンツだ



いわゆるSUVタイプのこの車がいくらするのか見当もつかないけれど
後部座席の窓を開けてもらったフレアが嬉しそうに顔で風を感じているのを見たら、どうでもよくなってきた



『ああやって外の空気を嗅ぐのが楽しいらしい。冬はたまったもんじゃないがな』



俺が首を後ろに向けてフレアの姿を見ているのへ、ヤツが苦笑気味に言った
確かに暖房を入れていても、冷たい風が前まで流れ込んでくる



「しかしさぁ。犬にベンツが一台か…
他にも停まってたよな。あれもあんたのでしょ?
仕事に行く時の黒いのが一台…何台あるんだよ」



SUVタイプのベンツの横にもう一台ベンツが並んでた事を思い出し、呆れ気味に独り言ちた



『なんだ。お前も欲しいのか?
確かにお前は俺の物だからな、一台あってもいいかもしれん』



…ダメだこいつは
今まで、この男の凄すぎる経歴ばかりに気を取られていたけど
実は頭の中がいかれちゃってるのかもしれないな



「あのね。あんたの物でも何でも、俺専用の車なんかいらねえよ。ポンコツだけど自分の車あるし」



冗談じゃない
車なんかもらったら、それこそ愛人じゃねーか



『俺の物、と認めるのか?可愛いやつだ』



ヤツは俺の言葉じりを捕らえるようにニヤリと笑い、右手で俺の手を掴む



「やめろ!ちゃんと前見て運転してくれよ!
あんたと車に同乗したまま死んだら…何て言われるか想像しただけで変な汗が出るわ」



『そうだな……
テソン代表、年下の恋人と心中か?!という風に、センセーショナルかつシンプルなタイトルになるだろうな』



恋人…?俺が恋人だって言うのか?
…例えば、っていう話だよな



フレアのために全開になっている後部座席の窓から、潮の香りがしてきた事にも
“恋人”というキーワードに動揺していた俺は全く気がつかないでいた



奇妙な関係性の男二人と犬一頭を乗せたMercedes-AMG GLE 63Sは



その白い車体に西海の風を受けながら、乙旺里の海岸へと近づいていた







にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
別窓 | 渇欲 | コメント:6 | ∧top | under∨
渇欲 54
2017-04-23 Sun 21:00


このお話はフィクションです






不安や迷い、そして怯えという感情があると
人間というのは、決まって悪夢を見るものだ



あれだけの暴行を受け恐怖に震えた日の翌朝
俺は悪夢を見るどころか、夢という夢を全く見ることなく目が覚めた



そんな俺の目には見た事がある天井が映る
首を横に向けるとそこには、両手で枕を抱え込む様にして眠る男の姿があった



いつもは流し固めている黒髪がさらさらと横に垂れ
射抜くような鋭い眼光を見せる漆黒の瞳も瞼に隠されている



チョン・ユンホの寝顔…
威風堂々とした普段の姿からは想像出来ないほど、柔らかな印象を受ける



すーすーと規則正しい寝息を立てるこの男の隣で眠ったという事が
酷い目に遭った俺に穏やかな眠りを与えてくれたんだろうか…



昨夜
俺は【紫蘭】へと単身乗り込んでいった



と言っても、取材のために果敢に攻め込んだわけではなく
俺がチョン・ユンホの物だと言われているという
噂の威力を試したかっただけなんだけれど



その威力云々ではなく
結果的には、標的である筈の男に惹かれているという事実に気づいただけだった



ただ黙って、俺の肩を抱き寄せたチョン・ユンホ



ヤツの体温で
ヤツの匂いで
俺は、言いようのない安堵感に包まれた



車で来たであろうチョン・ユンホの羽織っていたコートは冷たいままで
ヤツが…俺を包んでくれたその温もりが、コートに移る間も無いほどの短時間で来た事を予想させた



俺が乱暴されたと知らされて急ぎ駆けつけたんだろうか…



身体の相性が良い愛人だから?
お気に入りの愛妾だから?
それとも……



ふと睫毛に触れてみたくなって手を伸ばすも
そんな恋人みたいな事をしてどうなるのかと我に返り、その手を止めた



ヤツにとって俺は…目新しいオモチャ程度だろう
愛人?愛妾?なんて言われてるけれど、それ以下の存在かもしれないんだ



俺がチョン・ユンホを想う気持ちも…
そもそも一時的なものかも知れない



以前何かの取材の際、心理学者に聞いた事がある



人間というのは生理的覚醒状態、つまり脈拍が上がり心臓がドキドキする様な事があった時
異性が近くにいるとその相手に対してドキドキしていると錯覚する事があるらしい



相手が魅力的だった場合、より一層その錯覚が起きやすい



俺の場合、相手は同性だったけれど
そんな状態に当てはめるとなんとなく合点が行く



こんな男に…いや、言い方が違うな
こんなすごい男に…恋心なんて持ったってしょうがない



恋の様な感情は
錯覚だと思った方が賢明な判断だろう



コツン
カツッ、カツッ



ふと、部屋の扉の所で音が聞こえて物思いから現実に戻る
眠っているヤツを起こさない様にそっとベッドから出て、扉を開けた



するとヤツの愛犬フレアが扉の前で座っていた
恐らくは長い前足の爪で扉を叩いて鳴らしたんだろう



さっきの音は、ドアを開けてという彼の控え目な合図だったらしい



「フレア。どうした?ごはんかな」



じっと見上げる彼に尋ねながら、前日に来た時の記憶を辿りながらリビングへ向かう
フレアもそんな俺について来た



キッチンに一緒に入ると
フレアは食器棚などが並んでいる場所の前で、その長い鼻先で一つの棚を突くようにしている
その扉を開けると、そこには彼のフードが入っていた



「お前賢いなぁ!これが食べたい、って言うんだな?」



犬は飼った事がないけれど、彼は相当頭がいいんだと素直に感動してしまった
フードのパッケージで分量を確認して、この前教わった様に彼専用の台へと置いてやった



キッチンを見渡すと今日は週末だからか、キーパーの人が作るという朝食らしき物は見当たらない



冷蔵庫を開けて朝食に出来そうな材料をピックアップする
大学の時にレストランでバイトしていたから、こういう事は得意なんだ



新鮮そうな葉野菜を洗ってちぎった所にトマトをサイコロ状に刻んで加え
オリーブオイルとバルサミコ酢に、ブラックペッパーを振って作ったドレッシングで和える



ほうれん草はスライスベーコンがあったから、それに卵を加えて炒めた
パンをスライスしてトースターで焼いていると、リビングのドアが開く音がした



『いい匂いだ』



ラフにボタンを止めたシャツを羽織ったチョン・ユンホが、片手に新聞を持って部屋へ入って来た



「あ…悪りぃ、勝手に冷蔵庫を漁ったから。もうすぐ出来るからさ。あ、コーヒー飲む?」



なんとなくヤツの顔を見る事が出来なくて
ヤツが返事するタイミングを掴めないくらいの早さでまくしたてた



この男に…甘えてしまった自分を
そんなわざとらしい態度で隠してるんだ



そんな事もお見通しらしく
チョン・ユンホは少しだけ口元を横に動かして椅子へと腰掛けた



『コーヒーはカフェオレにしてくれ。砂糖は二杯。次からは黙って淹れて持って来い』



そんな傲慢な言い方をヤツがしたのもきっと
俺がどう接していいか困っている事への配慮だと、この時はまだ気づく余裕はなくて



「はぁ?!あんた何様だよ?っていうか、俺はあんたのハウスキーパーじゃないし」



こんな風に自分らしさを取り戻し、いつもの勢いでヤツへと返しながら
言われた通りに作ったカフェオレを持ってヤツの元へと運んでしまう



『じゃあ何だったらいいんだ?』



そう言いながら、俺の腰を引き寄せて自分の膝に座らせるチョン・ユンホは
やっぱり、俺が思うよりもずっとずっと上手の相手だ



「やめろって!パンが焦げるっ!」



何だったらいいんだろう…
その答えを考える事もヤツに全部読まれてる気がして、慌ててキッチンへと逃げ帰った



ダメだ
なんか俺…やっぱり変だ…



あの男の前では
嘘をつく事も、取り繕う事も、虚勢をはる事も
何もかもが通用しない



どんな自分が、本当の自分なのか
それは客観的に見た事がないからわからないけれど
何故か…ヤツ前だと自然に振る舞えている気がしていた



「お、そうだ。
フレア、お前にも卵焼いてやんなきゃな」



フレアに話しかけながら、皿に乗せた朝食を無造作にヤツの前へと置いて再びキッチンに戻る



『ありがたく頂こう』



胸の前で十字を切りフォークを持ったヤツの姿が横目に入った



ふーん、クリスチャンなんだ…



フレアに味付けなしのスクランブルエッグを作って彼の食卓へと置いた後
自分の分の料理とパンを乗せてコーヒーを持ち
ヤツが食べている前の椅子へと腰掛けた



「フレアってさ、頭良いのな。
ごはん食べるって自分でアピールして、その場所まで教えてくれたんだよ」



何を話していいのか分からない時
優雅に一口ずつフードを食べているフレアの話題はちょうど良かった



人間らしい感情を持っていなさそうなヤツも
フレアのために大きなベッドを買ったりするくらいだから、きっと可愛がっているんだろうし
お姉さんの預かりっ子だって言ってたから…



『そう言うと聞こえはいいがな。犬の分際で人間を使うんだ、あいつは』



そう言って
チョン・ユンホはフレアの方を見てから俺へその目を向ける



『お前も早速使われただろう?
ごはんはここだぞ、教えてやったから用意しろってな』


「確かにそうだな」



さっき見たフレアの一連の動作
そこへヤツの話したセリフが重なり頭で再生されて可笑しくなった



「今日はキーパーさん来んの?フレアの散歩はあんた行ってやるのかよ。今日休み?」



俺がそう言うと、ヤツは目を細めて何故か笑った



『シム・チャンミン。
言葉を話す時は一度頭の中で整理してから話せ。それから主語を省略するな。

…それとも、俺とはもうツーカーだと言いたいのか?』



ふと伸びて来たチョン・ユンホの指が俺の口の脇を拭った
食べながら喋ったせいで、飛び出したケチャップが付いていたみたいだ



ケチャップが付いた指をヤツは自分の舌で舐める



およそ上流階級の人間がする様な行為には見えないそれは
チョン・ユンホから与えられる官能を呼び起こしてしまうような…



朝には似つかわしくない
そんな妖しげな行為に見えた






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
別窓 | 渇欲 | ∧top | under∨
恋着
2017-04-20 Thu 18:00


こちらのお話は「ユノのお帰りなさいカウントダウン企画。」にて書かせて頂いた作品です




このお話はフィクションです
CPはミンホです。ご注意ください







帰ってくる…
あの人が、ここに…


身体中に電気が走るっていうのはこういうことなんだって、今初めて知ったんだ…






毎朝確認する事が義務付けられている社内メール


自社商品の雑誌への掲載を知らせる広報部の報告だったり
新製品の特徴や販促計画を知らせる企画部の報告だったり


今日はその中に
春の人事異動を知らせる人事部からの報告も付いていた


俺はシム・チャンミン
25歳独身、趣味はLEGO集め
ここ、株式会社クムソン販売事業部営業二課で働く会社員だ


クムソンは元は繊維メーカーだったけれど
今はそれだけでなく、主としてアンダーウェアの企画製造販売をしている


俺の仕事は
デパートやショッピングモールなどに出店しているクムソン販売店の管理、そして先方との取引だ


〈話が上手くないくせに営業なんか出来るのか〉


クムソンに入社して配属が決まった俺に父親が言ったその一言


実はその通り、俺は話し下手だしどっちかというと人見知りするタイプだから
営業なんか絶対に向かないと親は思っただろう


ただし話し下手で人見知りする性格は恋愛だけは別なんだけど…
って、それは親の知るところではないが


ともかく、入社して第一声で「向いていないから配属先を変えてくれ!」なんて言えるはずもなく
俺はあつらえたばかりのスーツを着て、販売事業部新入社員研修に臨んだ


そこで “あの人” と出会った


『ようこそ、我がクムソンへ!!
…ん?みんな緊張してんな!大丈夫。ほら、無理にでも笑顔になってみろよ。

人間ってさ。嘘でも笑ってると不思議と楽しくなってくるんだぞ』


根拠もなさそうな事を、さも本当の事のように話すのは
販売事業部主任のチョン・ユンホさんって人だった


ふぁっ…イケメン…
モロ、どストライク…


ちょっと黒目がちな切れ長の目
綺麗な顔の輪郭に通った鼻筋


柔らかそうで…美味しそうな厚めの下唇


恋愛では割とガツガツいくタイプである俺の
品定めするかの様な下心アリアリの視線に気づいたのか?


…っていうことは無いだろうけど、彼は急に俺へと目線を向けた


???
一瞬目があったと思ったら、途端に逸らされたんだけど…何で?


その後もチョン主任は、ちらちらと俺を見ている気がして
俺としては合わなそうな配属先になって憂鬱だった気分が一気に高まった


恋愛には積極的(但し、オトコが対象!)な俺
最近恋人と別れたばかりで諸々溜め込んでる俺


そんな俺が社会人としてスタートしたばかりの場所で、目の前にどストライクな相手がいれば…
それが上司だとしても気分は上がってくるもんだろ


7人だけしかいない新入社員だから
俺だけを特別に意識してちらちら見ているわけではなく
満遍なく見渡してるだけなんだろうけどさ


まあ、妄想の中だけで楽しむとしてもそれだけで
合わないって思ってた営業部での社会人生活が楽しくなる…そう前向きに思ったんだ


そして
そのどストライクなチョン主任が教育してくれた新人研修が無事に終わった頃
やっぱり、彼は俺を見てるって気づいた


チョン主任はやや黒目がちで、目線がどこを向いているのか読みにくいんだけど…
俺が意思を持って彼を見つめ返すと、俺の視線から逃げていくのが明確に見てとれた


そして更に、俺の背中を押してくれる事もあった


同期入社に、アンダーウェアを販売するにはうってつけっていう様なカラダの女の子が居て


……って、こんな言い方をしてるってバレたら
きっとセクハラの罪でコンプライアンス部門に吊し上げられるだろうけど


俺の恋愛対象はオトコのみだけど、さすがにその子の身体つきには目がいくくらいで
他の部の新入社員のみならず、噂を聞きつけた先輩社員もこぞってその子を見にくる程だった


彼女は最初から〈チョン主任って超カッコよくない?!私、絶対オトすぅ!〉と意気込んでいて


美人でいいカラダしてても、その言い方がいかにもミーハーで頭が悪そうにしか見えなくて
天は二物を与えず…ではないんだって思った


彼女のそのナイスバディを駆使した猛烈アピールにも、チョン主任は一度もデレることが無くて
それどころか、眉間にしわを寄せて嫌がってる風に見えた


もしかして同類?
嗜好が……同じ?


何となくそう直感が働いて、俺は勝負に打って出たんだ


たまたまトイレで会った時、すれ違いざまにチョン主任の耳元に顔を寄せて言った


「ねえ。俺を見てるでしょ、いつも」


その瞬間俺は
チョン主任の色白な身体が、みるみるうちに紅潮していったのを目の当たりにする


俺は思わず彼の腕を掴み、トイレの個室に引き摺り込んだ


『なっ、何するんだよ!』


チョン主任はそう言って俺を突き飛ばすも
その腕にはさして力が入っていない様に感じた


『シム君!冗談はやめろって!』


そしてそう言ったチョン主任はやっぱり、見つめる俺から目を逸らすんだ


「そうやっていつも目を逸らすのも知ってますよ、チョン主任」


スーツの上からでも分かるチョン主任のがっしりしたその体格
対する俺はスーツがあまり似合わない体型


だけど今は…その俺が彼の腕を押さえつけてる


『……だったら、もういいだろ。離してくれ』


何が『もういい』のかわからなかったけど
いつ誰が来るか分からない会社のトイレで、上司であるチョン主任をどうこうしようという気は元々無く、俺は身体をずらしてドアを開けた


この時は…俺は手を離したけれど


彼と目が合う回数が増えるほど
その手にもう一度触れたくなって


…もっともっと、近づきたくなって…


社会人生活を歩み始め、慣れない事だらけで疲れ果てた身体をベッドで休める時も


資料を渡してくれる彼の指や、俺を見る彼の黒い瞳を
毎晩思い浮かべるようになっていく


そして迎えた新人研修最終日、打ち上げの日


目が合った時に初めて目を逸らさなかったチョン主任を、トイレへ追いかけて行った


「チョン主任、何で俺を見てるんすか?
…俺がチョン主任を見てる理由が分かるから?」


並んで用を足しながら、サラッと聞いた


『シム君がいい男だから見てるんだ。悪りぃか』


「俺から言わせると、そういうチョン主任の方がいい男ですけどね」


横から見る彼の顔は正面から見るのとは違って、輪郭そのものが格別に美しく心底見惚れた
彼が言った言葉の意味も追求しないうちに、このいいオトコをもっと見たいと思った


…彼の、全部を見たいって…


打ち上げの会がお開きになり
それぞれ帰る方面が同じ人達が固まって歩き出す


『シム君、俺について来るのは何で?』


「同じ方向だからです。別に主任の後をつけるストーカーじゃないっす」


後ろに続いている俺に対して、口を尖らせながら詰問するチョン主任


顔も、スーツ姿も、ヘアスタイルも
バッチリキマっててすごくカッコいいのに
尖らせてるその厚い唇が…どうしても可愛く見えてしまうんだ


『あっそ。シム君はさ、どう?
女性物のアンダーウェアを扱うのって抵抗感ない?』


無言でいるのもおかしいと思ったのか
チョン主任は職場の先輩らしくそう聞いてきた


「自分は話し下手だし人見知りだし、営業って聞いた時はマジ無理!って思ったんですけど。
女性物の担当って決まったらある意味、天職かもしれないって思いましたよ」


『お?いいじゃん。入って早々自分の仕事が天職って思えたなんてさ。
新入社員の中ではシム君が勝ち組だな!』


この人の天然の明るさが、彼を若くして主任にまで出世させた理由かもしれない
それを象徴する様な優しい笑顔で、俺を振り返る


「俺、女には性的魅力を感じないんで。
セクシーなランジェリーを見ても、あくまでも商品としてテキパキ陳列出来そうです」


そう言いながら俺は
チョン主任のすぐ脇まで近づいて、彼の白い首筋に鼻を寄せた


「主任の匂いの方が興奮します…」






『待てって!研修で注意したろ!お前はせっかち過ぎるぞ!』


帰る方向が同じだった俺たちは今、その途中にあったホテルの一室に居た
ドアを閉める前に主任の首筋にむしゃぶりついた俺をチョン主任が叱る


研修で散々注意された
先方との商談を練習するロールプレイングでも、先を急ごうとし過ぎるって


でも、無理
その場の雰囲気に流されたんだとしても
…あなたと密室に居るんだから


「主任が悪いんです」


『あ?何でだよっ!』


何でだよ、って言うくせに
首筋をきつく吸い上げると掴んでた俺の肩を更にぎゅっと掴む


ようやくドアを閉めて廊下をもつれ合う様に歩き、部屋のど真ん中にあるベッドへと向かう


俺が思い切り突き飛ばした訳ではないのに
チョン主任は俺より重いらしく、ちょっと押しただけであっさりとベッドへ倒れ込んだ


「初めて見た時からチョン主任に惚れてたんです。俺」


『ふーん』


「ちょっと!ふーんって何すか?人が告白してんでしょーよ!」


俺の下で俺を見上げるこの人の
組み敷かれているのに、何処か優位な雰囲気に
自分の中に潜在していた征服欲が湧き出してくる


「俺。主任が好きです」


言っちゃった…でも、もう後には引けない


『俺は…好きとかってわかんねーよ。
シム君がいい男だなって思ってはいたけど、突然過ぎっからさ…そういうのわかんねー』


ホテルにまで一緒に来ておいて今更かよ…
思わず舌打ちが出そうになるも、グッと堪える


「じゃあ。キスしましょう、主任。そしたら自ずと答えは出てきますよ」


何度となくその唇に触れる事を妄想したこの人の唇を奪う


息継ぎの呼吸がその厚めの下唇から漏れる
それだけで俺のソコに血液を集中させてしまう


熱くて
何だかタバコのにおいがちょっと気になって
でも、あっという間にお互いの舌が痺れるくらい深くなっていって


初めて目にした彼の肌を全部
自分の舌と指で覚えさせるように、ゆっくりと満遍なく味わった


そう
チョン主任の身体の中の熱さも…知ってしまった






「どうです?まだわかんないっすか?」


ハダカになって
身体のあちこちにお互いの熱を証明する赤い痕を無数に残した後、彼に問うた


『わかんね』


「はぁ?!セックスしといてそれかよ」


事実
俺は主任の身体の奥深くに自分の欲を吐き出して
チョン主任もまた、俺の動きに導かれて自分の腹に白濁を散らしていたけれど


「じゃあ、もう俺の片思いでいいっすよ」


チョン主任の胸に落ちた自分の汗を指で拭ってから、彼の横にゴロンと寝そべった


『俺が戻ってきた時にシム君が一人前の営業になってたらさ。付き合おうぜ』


寝そべった俺をよそにチョン主任は身体を起こし
タバコに火を点けた後、そんなことを言ったんだ


「へ?主任、どっか行っちゃうの?」


『付き合おう』って言ってくれた事よりも
『戻ってきた時』という言葉が胸を突いたのは


もうかなりこの人が好きで、居なくなる事への怯えが芽生えていたからだと思う


『この新人研修を終えたら香港支社へ異動するんだ。戻って来るのは二年後。
どう?この期間で一人前の営業になる自信ある?』


……なるしかないっしょ
たった一回のセックスで終わりなんてあり得ない


……まだ “恋” をしてないでしょーよ


「主任の合格が貰えるよう、研修で学んだ事を忘れずに頑張ります。
戻ってきたら…俺と付き合ってくれるんですよね?」


『約束だな。じゃあ、仮契約。仮契約にあたって。
俺は主任って名前じゃないから、ちゃんと名前で呼べよ』


タバコを灰皿に押し付けて俺の方を向く主任は
そう言って小指を差し出した


「…ユノさん。俺、待ってます」


『ユノさん、ね…ま、いっか。じゃあ俺もとりあえず。
チャンミン君。戻ってきたら、その時がスタートだから』


そう言ってニコッと笑ったチョン主任と俺は
“恋人への仮契約” という名目の指切りを交わした






この二年で心に深く恋慕った想い人
ちょっとはにかんだ顔で、販売事業部に帰ってきたこの人と


“恋” を始めるのは、今日この日からだ


ユノさん
おかえりなさい







にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
別窓 | 短篇 | コメント:0 | ∧top | under∨
夢現 ~耽溺 特別篇~
2017-04-20 Thu 12:00


このお話はフィクションです






大好きな人と思いが通じた僕は
どんなに仕事がきつくても、言い様のない充実感でいっぱいだった


最愛の人を得た事で僕は
今以上に仕事に打ち込むと宣言した
自分自身にも、恋人にも、社長のトゥギヒョンにも、マネージャーのキュヒョンにも…


でもさすがに、このところの分刻みの過密スケジュールは
気持ちだけはやる気があっても体が付いていかなくて、気づくと衣装を着たまま朝を迎えたりしていた


それでも、愛しい人の為に
僕は仕事へ向かった


ユノヒョン…ユノ…
ストーカーばりの猛アタックの末に片想いを実らせた僕の最愛の恋人


彼はアパレルショップの店員で
僕は芸能人で
当然、生活している時間帯が重なる事はほとんど無い


それでも、今の世の中には便利なアイテムがふんだんに用意されているから
僕は今も、そんなアイテムの一つであるSNSで恋人への愛のメッセージを送る


「今日の釜山は気持ち良い青空だよ!これで撮影もはかどる~」


生活する時間帯が違くても
撮影の為に釜山に来ていて、ソウルにいるユノと離れていたとしても
画面の上では一緒に居られる


ユノがこの時間何をしているのか?
恋が実ったばかりの僕には、まだ予想するのは難しいけれど
僕の送ったメッセージにすぐ“既読”が付いた


『こっちは朝から雨だ。そっちに雨雲が行く前に終われる様、仕事頑張れよ』


うふふ…頑張れよ、だって
誰に言われるよりも彼にそう言って貰える事は
僕にとって大きなエネルギーになる


「ユノ♡♡離れていても、ラブラブだね!
僕は今、きっとユノの頭の中に居るからぁ!」


そんなメッセージの後
投げキッスをするスタンプを送った


“既読”になったけれど返事が無い
僕の愛のメッセージに対して既読スルーなんて…いい根性してるな


僕はめげずにハートマークの付いたスタンプを何度も種類を変えて送った
相変わらずこんなところはストーカーっぽいけど…


『んもう!わかってるってば!』


僕のラブラブ攻撃に屈したユノから、そんな素っ気ないメッセージが帰ってくる


『俺もMAXが好きだよ♡』


そんな気の利いた返事は最初から期待してないんだけどね


忙しくてもこの小さい端末を使って時間を共有出来る
ユノの存在を感じ取る事が出来るんだから…


今の僕にとっては
たったそれだけでも幸せな事だ


最後に「사랑해♡」というスタンプを押して、スマホをオフにした


メイクも終わり、撮影が始まるのを待つ間の束の間の休息


昨夜の撮影が押してホテルの部屋に帰ったのは深夜遅くだったから
トレーラーハウスの小窓から入ってくるぽかぽかとした風に誘われて、ウトウトしてくる


ユノとSNSで話せた事で満ち足りていた僕は、その心地良い風に彼を重ねながら目を閉じる
ユノの腕に包まれている様な…そんな錯覚の中、頬杖をつき疲れた体を椅子の肘あてへと預けた


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


『MAX…俺、大事な事を話してなかった。
大学に入る前に済ませようと思ってたけど、その時親が病気をして…兵役義務を果たせずにいたんだ』


「ユノ…それじゃあ、もしかして…」


『ああ…。今、その義務を果たす時が来たんだ。
一年と九ヶ月。その間、俺を待っててくれるか?』


「イヤだよ!!だってついこの間ようやく付き合い始めたばっかりでしょ?
僕を置いて行っちゃうなんてヒドイ!そんなの我慢出来るわけないっ!」


『MAX…俺を困らせないでくれよ。
この国の男子たるもの、果たさなければならない義務だぞ?

そんな事も我慢出来ないんだったら、俺への愛もそれまでだな』


僕を抱きしめていた人が目の前から消えて行く
僕が必死で追いかけてもユノはその足を止めない


分かってる
その一年九か月という期間は、必ず味わわなければならない重要な期間だって事を


でも
付き合ってまだ数週間も経っていないのに
何故今、僕を置いていってしまうのか理解出来なかった


一年だけでも十分に長い
それに加えて九ヶ月もあれば、二年って言った方がいい気がする


そんな長い期間離れ離れになるなんて…


想像しただけでも気が狂いそうだったけれど
僕のユノへの愛はそれだけ深いものだから、その想いが揺らぐ事だってある訳無い


それなのに
俺への愛もそれまでだ、とか言っちゃってさ
僕がどれだけあなたを好きか分かっていないよね


でもいいもん!!
ユノが付き合って早々にそんな試練を与えるんだったら、僕にだって考えはあるよ!!


兵役に行ってその合間の自由時間に
僕の熱烈なラブシーンを見てしまえばいい!


会えないどころか、SNSだって出来ないんだよ!
僕の熱愛報道とか出たら、僕に直接確かめる術も無いんだからっ!


『まさかMAXが?そんなバカな!』


辛い訓練を受けながら、思う存分ヤキモチを焼けばいいんだぁぁ!





ミンッ!…ッ!!チャンミナッ!!〉


ガクガクと僕の肩を揺らしながら、マネージャーであるキュヒョンが鬼の様な形相で立っていた


〈疲れてるのは分かるけど、後少しだから頑張れよ〉


…いけない
僕ったらウトウトしてたつもりが、がっつり寝てしまったみたい


今日の撮影が終わればソウルに戻れるんだ
トゥギヒョンに認めてもらうために、仕事でポカをするわけにはいかない


気合いを入れ直す様に大きく深呼吸をし頰をバチっと叩く


シム・チャンミン
俳優としての顔をしっかり作り、トレーラーハウスを後にした




撮影が無事に終了したけれど、ソウルへ帰ったのは翌々日だった
映画のPR活動も同時にこなし、同時期に開催されていた映画祭でのプレゼンテーターの仕事も重なっていたから


息のつく暇もない程のハードスケジュールは
僕の脳内での疲労を徐々に蓄積させていた様で
スマホを見る余裕も無ければ、テレビを点ける気力も無くなっていた


ハウスキーパーの人がきちんと手入れをしてくれているから、一週間ぶりに帰る自宅はきれいだったけれど
やっぱり人けが無かった自分の部屋は、実際の温度よりもずっと寒く感じる


僕の中にぽっかりと空いたものが何なのか
それすらも気づかない
睡眠不足が重なっていた事もあり、僕の思考回路はショート寸前だった


“ピンポーン”


よろよろしながらようやくソファーに辿り着いたというのに、煩わしいチャイムの音がした


普段だったらモニターで応答するのに
そんな事も判断できずに、もう一度よろよろと歩いて玄関へと向かう


『MAX…』


ドアの向こうには、僕の最愛の人が立っていた


びっくりするくらい小さい顔にきれいな目
僕を包み込む広い肩と厚い胸
ちょっと可愛らしいぷっくりした下唇


ユノだ…
ユノが帰って来た…


「ユノっっ!」


僕にぽっかりと開いた穴はこの人の存在だった
僕が…恋い焦がれて、ようやく想いを通わせたこの人だ


『MAX?どうしたんだよ、目にそんないっぱいに涙を浮かべて…』


「だって…だって…ユノが僕を置いて行っちゃうんだもん…」


目の前から居なくなり、追いかけても振り向きもしなかったイジワルな恋人に抱きつく


『置いてったって…それは釜山へ行ってたお前の方だろ?
俺がどれだけ寂しかったか分かってて言うのかよ』


ユノ…
僕と会えなくて寂しかったって言ってくれてる
そうやって下唇を尖らせて拗ねるあなたが愛おしくて堪らない


「僕は置いてってなんかいないよ。ユノでしょ、付き合ったばっかりで兵役になんか行っちゃって」


『はっ?何言ってんの?MAX…いや、チャンミン、しっかりしろって。
俺だよ?ちゃんと分かってる?!』


あ…兵役に行っちゃったのは夢だったんだ…
僕ってば、疲れ果てて意識混濁しちゃってた


「ユノ…ユノ…僕のユノだよね?
もう僕を置いてどっか行ったりしないよね?」


夢だったと分かってもどこか不安が残る僕は
そう言いながらユノの服を掴み、まるでむずがる子供みたいに何度も揺らす


話が全然見えなくて、多分頭の中にハテナマークがたくさん浮かんでいるであろうユノは
それでもそんな僕を安心させる様にぎゅっと抱き締めてくれる


『今日こっちに帰ってくるってキュヒョンから聞いて、職場から直接来たんだけど。
どこにもいかないよ、もう。ずっと、チャンミンの傍にいるから』


ちょっと高い声で優しく語りかけてくれるユノ


「ここに来た、じゃ…なんだか遠く感じる」


駄々を捏ねる僕のそんな言葉にも
ユノは僕の眉間、瞼、頰へと順に優しいキスを落としながら答えてくれる


『チャンミンのところに帰って来たよ』


ユノ…ユノ…
こんなワガママな僕だけど
子供みたいな僕だけど
これからはずっと一緒にいてね


「おかえりなさい、ユノ。釜山から僕もただいま」


『じゃあ俺からも。
ただいま、チャンミン。釜山からおかえり…』


大好きな人の匂いの中で
僕の夢現の時間は、ゆっくりと現実に変わっていった


ユノ…大好きだよ…


夢の中でも、現実でも
これからはずっと一緒に居てね






夢現 -完-




貴方のがないという心の空白


色々な現実を見て視野を広げることが出来たこの期間は、今まで知らなかった多くの事を得る事も出来ました


私にとっての空白の期間をどんな風に過ごしてきたのか
あなたがこれからどんな姿を見せてくれるのか楽しみです


おかえりなさい、ユノ




くみちゃん様


お誕生日おめでとうございます


二年近いこの期間を短く感じる事が出来たのは、きっと貴女という存在があったからでしょう


私が落ち込んだ時も、自然と笑顔を取り戻させてくれた貴女


貴女が周りに笑顔を届けてくれた以上の幸せが
くみちゃんさんへ届きます様に




Ali様


いつもいつも素敵な作品を快く提供して下さり
本当にありがとうございます


今回もまた、作品を見ながらお話を作りました
貴女の作る作品の雰囲気に合えば嬉しいです


Ali様のブログはこちら↓


ホミンを愛でるAliの小部屋



ゆんちゃすみ






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
別窓 | 耽溺 | コメント:9 | ∧top | under∨
渇欲 53
2017-04-16 Sun 21:00


このお話はフィクションです






なんでだよ…



『いい男が台無しだ』



そんな台詞を言って俺の顔を撫でる男は
俺がターゲットにしている男だ



殺人が絡む様な大きな事件の黒幕だと睨んでる
…それなのに



革手袋を外したその男の手が思いの外温かくて
その温もりを味わう様に、自然と首を傾けた



そんな俺の身体を受け止める様に隣に座るチョン・ユンホ
その身体からは嗅ぎ慣れた煙草の匂いがした



『なぜやり返さない?
口喧嘩を好んでする割にケンカは苦手か?』



俺が預けた体重を黙って受け止め、腕をゆっくりと肩に回しながらチョン・ユンホが言う



背の高さは俺の方が高いと思っていたけれど
ヤツという人間の器を物語る様な深い懐に、俺はあっという間に包まれていた



「ケンカは嫌いだ。暴力反対!ってね。
っていうか、見た目で太刀打ち出来ないって判断したのさ」



強がる口調も
チョン・ユンホの温もりの中では全く意味を成していない



痛くなかった筈の傷口が、急にズキズキしてきて
それを引き金に、めちゃくちゃに殴られた事で受けた恐怖が全身に震えとして現れた



「思う存分殴れば、あの男も満足してさっさと仕事に戻るって思ったんだよ。
俺は…この店を監視するという大事な仕事があるからな」



お前を監視しているんだという宣言も
ヤツの腕に抱かれながらでは何の牽制にもなっていない



分かっているのに
そんな自分のちぐはぐさが煩わしい



強がっているのは…俺の上辺だけで
この男の懐に包まれた事で震えが止み、安心している自分が本当の姿なんだろう



子供をあやす様に、ぽんぽんと規則正しく腕を叩いていたヤツが口を開く



『この店を監視していて何か成果はあったのか?
俺も常連として気になるな』



俺が【紫蘭】のオーナーが誰なのかを知っている上でのこんな台詞…
不遜な笑みを浮かべているヤツの瞳をジッと見返す



俺が真実に行き着いたとしても
この男はきっと、顔色一つ変えない気がした



こうして宥められている俺は丸切り子供みたいだけれど、そんな俺を侮っている様には見えない
むしろ、どんな結果を出すのか楽しみにしている様に感じた



それがチョン・ユンホという男の
年の差だけではない人間としての余裕なんだろう



どんなことが起きようとも
それに対処し、きちんとクリア出来るという自信そんなヤツの心がはっきりと見えた



「スムダン電子の元会長と検察庁長官。元会長の愛人であるアイドル。ここが始まりだ。
検察庁長官が紫蘭に来る日に決まって顔を見る男が居てさ」



ヤツの胸に重なる自分の耳に、話している声が籠った様な感じではね返ってくる



「その男は、最大野党の党首が紫蘭に来ている時にもよく見かけたんだ。
…そしてその直後、大統領に汚職の疑惑が湧いて出た。近いうちに答えが導き出せる気がしてるよ」



自分の頭の中を、整理しながら正直に話す
この男には…偽りは決して通用しないから



『いい線をいってるな。さすがによく見ている』



こんな風に褒められるのは、何だか気味が悪い
説明する時に閉じた瞼の裏で、ヤツがどんな表情をしているのか思い浮かべてみた



『この調子ならば、お前のその目に“真実”という物が映し出される日も近いだろうな』



俺の頬を両手で挟み込んだチョン・ユンホがじっと見つめて来る
ヤツの宝石の様な漆黒の目に自分の姿が映って見えた



吸い込まれてしまいそうな錯覚に襲われて、ふと目を逸らしてしまう
でもすぐにヤツの手が俺の顎を掴んで、再び視線を合わさせられた



『この俺から目を逸らす事は許さん。
お前のその目に映る標的は俺だろう?逸らした時点で、お前の敗北だ』



この目だ…
ヤツのこんな目で見つめられると俺は…



吸い込まれそうになるという錯覚が現実になるように、自然とヤツと目を合わせてしまうんだ



ヤツは満足そうに頷くと
俺の頬を親指で一度だけ撫でた



何だよ…そんな事…
いい子だ、って褒められているみたいだ



そんなバカみたいな事を一瞬考えたけれど
目の前に居る男の目は再び、真剣な眼差しを見せた



『いいか?シム・チャンミン。
お前が追い求める“真実”を導き出すその時まで…
決して俺から目を逸らすな』



目の前の男の大きさに圧倒された
狎鴎亭の帝王という称号は、揶揄されてのものではない



全ての者がこの男の前で自ら膝をつく程の圧倒的な力を持っているからこそ、与えられた称号なんだと思った



「俺の目にさ、真実が映ったら…
あんたどうすんの?困るかもしれないよ?」



そんな大きな存在にささやかな抵抗を見せる
チョン・ユンホの口許が再び少し緩んだ



俺が真実に行き着く時
もしかしたらその時は、この男の破滅の始まりかもしれない
俺がヤツを…追い詰めるかもしれないんだ



それが一瞬でも怖く感じたのは



俺という存在が、もう抜け出すことが出来ないくらい奥深くまで
チョン・ユンホの一部に組み込まれてしまったからなんだろうか



そんな考えから逃げるかの様に頭を振って
頰に重なるヤツの手を振り解こうとして手を伸ばす



でも
自分の心のコントロールが効かなくて
血管が浮き出るチョン・ユンホの手の甲に重なり、そのまま止まってしまった



『でもシム・チャンミン、お前は…
その時もきっとこうして俺の腕の中にいる筈だ。

…俺の元からお前が逃げる事はきっとないだろう』



まるで呪文をかけられている様に
その男の言葉が、俺の身体を動けなくしてゆく



そうだよ…



きっと俺は
その“真実”がどんな物だったとしても、この男の温もりからは逃れられないだろう



チョン・ユンホが
俺の身体へと打ち込んだ灼熱の楔は



俺の身体に得体の知れない感情を芽吹かせ
そして棘のある枝を伸ばしながら俺を絡めとっていった



昂ぶる灼熱を受け入れ溢れた涙も
チョン・ユンホに揺らされて流した汗も
身体中に棘が刺さり流れてゆく血も



全て
この男に奪い取られた



そして



最後まで堕ちる筈が無い心までも
あっさりと奪われた



俺は……チョン・ユンホが好きだ…



そんな恐ろしい想いに気づいてしまった俺は
その“事実”から逃れるために



棘だらけである筈のチョン・ユンホの胸へと
再び、自らの身体を投げ出していたんだ



痛みを伴なわない
いや
痛みを伴っても構わないんだ



チョン・ユンホという監獄へ
俺を閉じ込めてくれ







にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
別窓 | 渇欲 | コメント:4 | ∧top | under∨
渇欲 52
2017-04-09 Sun 21:00


このお話はフィクションです






俺は何故、あの男を自宅へと招き入れたんだろう…



ジャーナリストとして、俺を標的としているシム・チャンミン
その夜も、彼が毎夜の日課としているらしい【紫蘭】の張込みをしていた筈だった



その男が
仕事を終えて帰宅した俺の目の前に、前触れもなく現れたのだ



人気の無い深夜のマンションのエントランス
そこにぽつんと立っているシム・チャンミンは何かにイラついているのか、足元の小石を蹴飛ばしていた



この時間では奴が移動に使っているであろう地下鉄も、運転を終えている筈だ
【紫蘭】から自宅へ帰らずに終電で俺に会いに来たのだろうか?



前の晩
テミンの事で心がざわついていた時



行き交う車の向こう側で【紫蘭】を見つめている奴の姿が、ふと目に入った俺は
今夜の奴と同じ様に、奴の家へと何故か足を向けていた



その思いが心を掠めて
マンションの前から立ち去ろうとしているシム・チャンミンに声をかけた



何度か身体を合わせただけの関係
しかも奴は、俺に無理矢理身体を開かされた訳で



それなのにのこのこと付いて来て、大きな目をキョロキョロと動かし見る物全てにいちいち感嘆の声をあげる
挙句、俺の大切なフレアもあっさりと手懐けた



この犬種は、猫の様だと言われる事がある
無邪気に誰彼構わず尾を振る事も無ければ、飼主にすら余程の事がなければ愛想を振る事が無い



それなのに
一度匂いを嗅いだ後はあっさりと奴の言う事を聞き、しかも目で要求を伝えるまでになっていた



俺からシム・チャンミンの存在を匂いで感じ取っていたらしいフレアは
彼と一緒休むために買った寝室のベッドに、ここのところ乗らなくなっていたが…



その存在の正体を確認して納得したんだろうか



自分の家だけれど、心が休まる場所だと感じた事がなかったこの部屋で
奴を抱きしめその温もりの中で目覚めた朝の感覚は、言い様のない感情を心に残した



フレアだけが生きているこの部屋
そのフレアもまた、本来ならばこの世に既に存在していないという事実



俺という人間の…虚像を象徴する空間で
シム・チャンミンが俺の“真実”の存在を作ってくれている様に感じた



フレアの世話をする奴を見ながら、着替えをする自分の姿を
もう一人の自分が遠くから見ている様な錯覚を覚え、頭を振ってリビングを後にした



いつもの様に迎えの車へ乗り込み会社へ向かい
いつもの様に上着を脱いでから椅子へ腰を下ろし
いつもの様にジェウンから渡される予定に目を通す



何も変わらない俺の日常の筈だ



通常の仕事の他に青瓦台(ソウル特別市にある大統領官邸)の件も気にかけなければならず、時間はいくらあっても足りない程だというのに



フレアの頭を撫でる奴の笑顔が
頭に浮かんでは、消えて行く…



目新しい“玩具”だと思っていた



鋭い文章を書くシム・チャンミン
脅しにも屈せず、俺を射抜く様に見つめたあの強い眼差し



俺の失った物をあの男に感じ、そしてあらゆる面でちぐはぐさを持つ奴に興味を持っていたのは間違いないが…



俺は…どうかしているのかもしれない



あの大きな目に奴が追う“真実”が映った時
俺は破滅の時を迎えるのだろうか?



いや…違う



その時は破滅の先にあるであろうこの世の果てを、あの男と共に見に行けばいい



俺の心に複雑な感情を芽生えさせた男…
その手を離してやる気はもう無くなった



シム・チャンミン
お前はもう俺の物なのだから



朝は柄にもなくぼんやりしていたが
その後は青瓦台や検察からひっきりなしに訪れる来客の対応に追われて



代表室へと戻った時、窓の外は既に宵闇に包まれていた



〈代表。紫蘭の前の店で騒ぎがあった様です〉



疲れた身体を椅子へ深く沈ませ煙草に火をつけた時、ジェウンが言った



『何の騒ぎだ』



ゆっくり紫煙を燻らせながら彼に尋ねる
あの店に関しては余程の事で無ければジェウンが口にする事もない
…あの男の顔が再び脳裏に浮かんだ



『あれに何かあったのか?』



ジェウンは左様ですと返し、スマートフォンの画面を俺へ見せて寄越す



『最初に書き込んだのはテミンか…。
あれに乱暴した奴を始末しろ。周りへの見せしめだ』



シム・チャンミンは俺の物だ



俺の物をどうにかするという事は、俺に対して刃を向けたという事になる
それを周囲に知らしめなければならない



狎鴎亭に生きているものならば、知っていて当然の事で
それを知らずにあの場所にいる事自体、最早存在すべき人間ではない



不必要な物は排除する、それは当然の事だ
頭が回る人間であればそうならない様に出来る筈で
出来ない者は俺の目の届く場所に存在してはならない



俺の大切な場所である【紫蘭】の目の前であれば尚の事



そして



俺の大切な存在である【シム・チャンミン】に何かをしたのであれば、八裂きにしても足りない程だ



『車を回せ』



ジェウンにそう言う前に
俺はもう上着を羽織っていた



社から狎鴎亭へ向かう車窓にいつもの景色が入ってくることはなく
ただ、フレアに向けていたあの男の穏やかな顔が浮かんでいた



フレア…姉さんが愛した犬
シム・チャンミンがフレアへ向けた笑みに、姉さんの笑顔が重なる



バカな事を…
似ても似つかない二人を重ねるとは



〈代表。今スヒョクから連絡がありました。
シム・チャンミンが紫蘭へ来店しているそうです〉



心に浮かんだ妙な思いを断ち切ってくれる様にジェウンが報告する
ルームミラー越しに軽く手を上げ返した



ふっ……面白い奴だ
俺から逃れようとしないばかりか、自ら俺の元へ飛び込んでくるとは



奴は、何を思い紫蘭へと足を向けたのだろう



入口で頭を下げて出迎えるスヒョクの肩を軽く叩き、奥の部屋へと向かいながら
予想もつかない行動を次々と起こしてくるシム・チャンミンが、どんな顔で部屋に居るかを想像する



そういえば…
今日の俺は、一日中奴の事を考えていた気がするな



ドアを開けると
殴られて地面に引き倒されたのか、ボロ布の様になった奴がゆっくり俺を見上げた



その瞳には何故か安堵の表情が見てとれて
その顔を見た瞬間俺も、同じ安堵という感情のせいで力が抜けた気がする



『いい男が台無しだ…』



奴の顔へ自然と伸びた俺の手は



俺の心に芽生えた複雑な感情が何なのかを
もう全部、分かっている様に感じた






皆様へ


いつもお運び下さりどうもありがとうございます


「渇欲」は不定期更新とさせて頂いておりますが、なるべく日曜と木曜に更新出来るようにさせて頂いております


本来ならば以前の様に末尾へ次回更新日を入れたいのですが、毎回ぎりぎりの状態で書き終えているためにそれも出来ずにおります事をお詫び申し上げます


愛犬の件で行けるか分からなかったSHINeeのライブに、今週何とか行ける事になりました


昨年から愛犬のためにずっと頑張ってきた自分へのご褒美になると思います


そのため、今回木曜の更新はお休みさせて頂きます


いつもいつも私の都合でご迷惑をおかけし、本当に申し訳ございません


何卒よろしくお願い致します


ゆんちゃすみ






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
別窓 | 渇欲 | コメント:11 | ∧top | under∨
渇欲 51
2017-04-06 Thu 21:00


このお話はフィクションです






金曜日の長い夜は
傷に染みる消毒液に顔を歪める事から始まった



自分で手当てをする俺を見ながら、数台のパソコンを起動させカチャカチャとキーボードを叩き始めたLucifer



この男は毎夜ここで何をしているんだろう…



〈これでよし、と。
あの店の寿命は今夜限りだろうなぁ〉



細い脚をデスクに乗せて背もたれに寄りかかる姿は、精一杯悪ぶる優等生の動作に見える
俺が見た限り、Luciferは品の良い服を着て上等な椅子に座っている方が似合う気がして



「あの店って、さっきの男の?」



ヒビの入った鏡を見ながら口元に絆創膏を貼り、Luciferへ尋ねる



〈そうだよ。あんな暴力野郎がこの街にいちゃダメだと思うし〉



こんな見た目の不良少年には、意気がって無理に吸うタバコの方がそれらしいけど
Luciferは棒のついた飴玉を咥えていて、それをしゃぶりながらチラッと俺を見た



〈帝王のお気に入りを痛めつけるとどうなるのかっていうのも、ちょっと見てみたいから〉



“悪さをする悪戯っ子”
そんな表現がぴったりな顔をするLucifer



「あのさぁ、お前何を知ってるのかわかんないけど。
狎鴎亭の帝王とか、お気に入りとか、ホント何なんだよ」



薄々は気づいているけれど
こんな風に言った方が、コイツもさらっと本当の事を言ってくれると思った
…あの掲示板に書き込んでいる主だと思ったから



〈この国は完全なネット社会になっちゃったでしょ?SNSやリアルタイムのチャットには色んな情報が溢れかえってて…

その情報がデタラメでも事実でも、面白ければいいっておかしな世界だよね〉



そう言ってペロリと舌を出す



〈シムさんも、もう有名人だよ。
ウェブニュースを作ってる割に、ネットの情報に疎いんだねぇ〉



そう言ったLuciferは傷の手当てを済ませた俺に手招きをする



やつの示した画面を見るとそこには案の定
俺がミノから教わって見ていた地域の掲示板が表記されていた



“帝王に本命の恋人か?!”
“背が高くてイケメンの男妾を寵愛中”



そんな書き込みが無記名で羅列している



「何だよ、これ…」



自分の事を書いていると思えない、そんな文章に呆れ果てる



“大変だよ!!帝王の城の目の前でお気に入りがボコられてた!”



その書き込みがされた後
燃料を投下されたかのごとく、秒単位で次々と書き込まれていくチャットを見て驚いた



〈僕が書き込んだの〉



そう言って、Luciferはもう一度ペロリと舌を出した



〈シムさん。自分ではあいつの正体を暴く、って意気込んでるんだと思うけどさ。
シムさんはもう、あっちの人になってるんだよ〉



Luciferは子供みたいな顔から急に表情を消し、いきなりそんな事を言った



〈でも。僕はシムさんの書く新聞好きだよ。
あいつの正体に少しでも近づいてくれるって信じたいんだ~〉



相当な気分屋らしいLuciferは、その後どう声をかけても生返事しか返してくれなくて
【紫蘭】の開店時間もとうに過ぎていたから、助けてくれたお礼を言って地下室を後にした



この男から情報を引き出すには相当骨が折れる…なんて思いながらいつもの場所に戻る



つい一時間前に、俺が屈強な男から暴力を受けた場所
いつも賑わっている隣の飲み屋は、開店準備をしていたさっきの繁雑さが嘘みたいにひっそりとしていた



「あんたの店の敷地には入ってない」
さっきはそう言ったけど、あまりの事に驚いて店の入口に行ってみる



店の入口は開いていて中を覗いて見ると
あちこちに椅子が転がり、グラスや酒が散乱していた



〈帝王のお気に入りを痛めつけるとどうなるのか楽しみ〉
そう言っていたLuciferの言葉が脳裏をよぎり、全身が総毛立つ



俺はいつも定位置に座らず、その足を【紫蘭】へ向けた



俺なんかが入れない事は分かってる
でも
Luciferの言う〈帝王のお気に入り〉がどれ程の威力を持つのか、試してみたくなった



重厚な石造りの門構え
【紫蘭 Hyacinth orchid】と小さく刻まれた入口…



その脇に立つ黒服の男の目の前に立ってみると
男は怪訝そうな顔で俺を見るなり、あからさまにその顔色を変えた



突然の事にどう対処していいのか迷ったらしく一瞬目を泳がせたものの、トランシーバーで何か連絡を取っている



俺が誰なのか、見るだけで分かったって事だよな…
自分の知らない所で自分が知られている事実を目の当たりにした



《こんばんは、シム・チャンミン様。急なお出でで驚きました》



ヤツからここの店を任されるだけの事はあるんだろう
彫刻の様にきれいな顔をしている支配人、イ・スヒョクが平然とした表情で現れた



《今夜は何かお召し上がりになられますか?》



俺を店へと案内する様に手を差し出し聞いてくる



「こんな格好だけど入れんの?
ここで払えるだけの持ち合わせなんかないけど」



ヤツが貸してくれたタートルネックのセーターにジーンズを着てる俺は
どう見てもカジュアル過ぎてこの店には到底似つかわしくない



挙げ句の果てには顔にあざを作り絆創膏が貼られて、羽織っているコートはさっきの乱闘ですっかり汚れていた



《どうぞ、こちらへ》



彼のその単純な返事は
それ以上聞いても、細かい事は何も言わないと予期させた



イ・スヒョクの後に続き、店の奥へと進む
通されたのは、俺がヤツに以前抱かれた部屋だった



《すぐご用意致します》



モデルの様なその見た目に似合うきれいなお辞儀をして、彼は下がっていった



「狎鴎亭の帝王のお気に入りか…」



少なくともヤツの持ち物であるこの店の人間が、俺を知っているのは仕方ないって思う
だけど…Luciferが書き込んだ事で、あの飲み屋がどうにかされたんだという事に動揺していた



ボーイではなく支配人であるイ・スヒョクが自ら酒を運んでくるのも
俺が狎鴎亭の帝王…チョン・ユンホの“愛人”で“男妾”だからか



《お怪我が大した事がなくて何よりでございました》



そう言いながらグラスにアイスを入れるこの男の言葉が、全てのことを物語っていた



俺が誰とどこで何をしていたのか
この店の中にずっと居たはずのこの男が知っている
見えない力が、動いているんだと思った



「おかげさまで。ボクサー崩れなんですかね、随分といいパンチでしたけど」



彼の作ってくれたウィスキーを口に運ぶ
チョン・ユンホが美味しいと言っていた銘柄の酒が口元の傷に染みた



《程度の悪いチンピラが何かで金を手にして店を出したんでしょう。
きっと今頃は、どこか冷たく暗い場所で凍えているでしょうが…》



やっぱり俺を殴ったせいで
あの男はどうにかされたんだ…



凍えている、と言ったイ・スヒョクの表情の方が
陶器の様に冷たく、生きている人間のものとは思えなくて
自分の置かれている状況への恐怖を感じた



チョン・ユンホ…
俺がターゲットとしている男がどれだけの存在なのか、どれだけの力を持っているのか



その事実を突きつけられた気分だった



『あの辺り一帯は俺の物だ』
そういえば、以前ヤツがそんな事を言っていたっけ



その時は何て大袈裟な事を言うんだろうと思ったけれど
今日の事を考えると、ヤツの言う事は嘘なんかじゃないと痛感する



そして俺という存在も…
チョン・ユンホの所有物の中に組み込まれてしまったんだ



作ってもらったウィスキーの水割りを飲み終わる前に
知らせを受けてやって来たらしいヤツが部屋に入ってきた



『いい男が台無しだ…』



革の手袋を脱ぎながら俺の口元に手を添えるチョン・ユンホ
その深い眼差しに吸い込まれそうになる



めちゃくちゃに殴られた事も
殴った男が店ごと姿を消した事も



ちっぽけな存在である俺には、大きな衝撃で



チョン・ユンホのそんな深い眼差しを見て、なぜか安堵してしまった俺は
この男からのに逃れる術はないという“事実”に
気づいてしまった



大きく広げられたチョン・ユンホの腕の中に
安らぎを求めている俺がいたんだ






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
別窓 | 渇欲 | ∧top | under∨
渇欲 50
2017-04-02 Sun 21:00


このお話はフィクションです






点と線が
一つずつだけれど繋がった感じがした



時間というものは集中しているとあっという間に過ぎていき
気づくともう空が夕焼けの色に染まっていた



ミノも俺のそんな性格を知っているから、あえて声をかけずに居てくれたんだろう



自分のやるべき仕事をきっちりとやり終え、俺宛に〈調べたい場所があるから〉というメモを残して先に帰ったようだ



俺も今週号の最後の校正を済ませてから、いつもの時間に更新をセットしてパソコンの電源を落とした



検察から請求された大統領の逮捕状を裁判所がどう判断するか、来週にも答えが出るだろうけれど



現職の大統領という事で前例も無く、判断が難しいと推測される



地下鉄の中で開くスマホのニュースにも、俺の頭の中にある内容と同じような言葉が並ぶ



…チョン・ユンホは
この流れをどんな思いで見ているんだろうか



『この騒動についてのお前なりの見解が楽しみだ』



ウィスキーを飲みながらヤツはそんな事を言った
俺が書く物を見ているんだという、妙にくすぐったい気持ちになったけど…



現大統領をその場から引きずり下ろす事は
ヤツ自らが望んだ事なんだろうか?



それとも



そうする事がヤツにとって好都合というだけなんだろうか?



分からない…
点と線が一つずつ繋がって行く事で
俺はその答えを得る事は出来るのだろうか



今夜もいつもの様に【紫蘭】へと足を向ける
地下鉄の駅から地上へ出ると、週末の狎鴎亭はいつもの賑わいを見せていた



いつもより少しだけ早かっただろうか
これから飲みに向かう連中が楽しそうに会話していたり、夜の街で働く人達が職場へと急ぐ姿も見えた



俺がいつも【紫蘭】を見張っているビルの脇に辿り着く



そこの建物に入っている飲み屋もこれから賑わいを見せるんだろう
今はまだ、従業員が準備の為に忙しなく出入りしていた



《何だ、あんた。こんな所に座って邪魔なんだよ》



俺の事を訝しげに見ていたバイトの女の子が言ったんだろう
店の店長なのか、やたらと強面な男から声を掛けられた



「ダメなの?ここは通路でしょ。あんたの店の敷地には入ってないじゃん」



俺は事実を言っただけなのに、その男にいきなり掴みかかられた



《その言い草は何だよ?舐めてんのか?》



人間というのは、どこか虫の居所が悪い時がある
この男ももしかしたらそうだったのかもしれない



俺は普通に接したつもりだったのに…



「あんたみたいなおっさんなんか舐めたくなんかねーよ」



止せばいいのに
向こうがそんな言い方をすれば、こっちもそんな風に返してしまう



こういう所が俺のダメな所だって
よく分かってるんだけど…



次の言葉の代わりに
俺の顔へ強烈な右フックが飛んで来た



俺はあんまり喧嘩は得意じゃない
背だけは妙に高いけれど、横幅が無く絶対的にパワー不足だから



あっという間にこの男のサンドバッグと化した



反撃する事もなく、ただされるがままに殴られる
痛いとかそういうのは感じない
人間というものの落差を感じて、ただ虚しいだけだった



〈その辺りでやめといた方がいいよ?〉



突然聞いたことがある声が、その男の背後からかかった



《なんだ?テメーも殴られたいのか?》



喧嘩の仲裁に入るにはこれまた不適切な体型のLuciferが、蔑む様に男を見ていた



今日もまた革のジャケットに膝小僧が丸出しのダメージジーンズを履き、手にはブランド物のバッグを持っているLucifer



蒼い目は、屈強な男をも恐れない強い眼差しを見せる



〈悪い事は言わない。その人を離した方がいいよ〉



Luciferの飄々とした言い方が、目の前の屈強な男へ更に燃料投下した様で
俺を掴んだ手を離しパッと身を翻すと、彼の細い腕を掴んだ



〈あんたさ、この店に入ったばっかり?ここで商売やりたくないの?バカだね。

…その男は狎鴎亭の帝王のお気に入りだよ?〉



Luciferは掴まれた手を振り払い、たわんだ袖をぱんぱんと直してから続けた



〈僕はLucifer。その名前も聞いたことが無かったら、あんたよっぽど無知だね〉



狎鴎亭の帝王のお気に入りと聞いた瞬間
男の顔から文字通り血の気が引いたのが分かった
そしてLuciferと聞いて更に後ずさりする



〈この人をこんな目に合わせたって知られたらどうなるかなぁ?早く対策を講じた方がいいね〉



屈強な男はでかい図体をこれでもかというほど小さくして、自分の店へと逃げて行った



〈大丈夫?ほら〉



路地に倒れている俺に手を差し伸べるLucifer
金髪の髪を立ち上げて目一杯大人びた雰囲気にしているけれど、心配そうに小首を傾げる顔は幼かった



俺に二十歳と言っていたけれど、本当はもっと若いのかもしれない



「悪りぃな」



素直にその手を握り、身体を起こした



〈狎鴎亭も落ちたものだね。あんな品の無い人間が居るんだからさ〉



以前会ったあの地下室に向かっているのか、
Luciferはそう言いながら歩き出す



「俺は元々ここに縁がないから。どんな人間がこの場所に相応しいのか分かんないな」



俺はそう返しながら汚れてしまった服の埃を払い、定位置に座った



〈手当てしなきゃ。血が出てるよ〉



座った俺の腕を再び握って、俺を立たせるLucifer



「大丈夫だって。こんなのどうって事ないよ」



〈ダメだよ。すぐ済むから、ほら。それに紫蘭の開店時間まではあと小一時間あるよ〉



Luciferは俺が【紫蘭】を見張っている事を知っている



いつどうやって知ったのか?



そもそも俺がチョン・ユンホをターゲットとしている事にも何故気づいたのか?



Lucifer、と名乗って相手が怯んだ理由は何なのだろうか?



この男の話をもっと聞きたいと思い立ち、素直について行く事にした



地下室の鍵を開けるとLuciferは早速奥から箱を持ってきた
その箱には包帯や消毒液、傷薬などが乱雑に収まっていた



「用意周到だな…いいよ、自分でやる」



手当てしなきゃ、と言いつつも
消毒液をガーゼに浸す動作がぎこちなくて
見ていてまどろっこしい気分になり、ヤツの手から道具を奪い取った



〈自分でやるのと人にやってあげるのとは、ちょっと要領が違うね〉



さっき屈強な男に対して強い目線を投げていた彼とはまるで別人の様に、はにかんだ笑顔を見せる



「Luciferさぁ。昼間清潭洞のお屋敷にいる王子と、夜に薄暗いこの地下室にいる不良少年と。
どっちがお前の本当の姿なんだろうな」



二面性を持って生活しているのには、きっと理由があるんだろう
ボコられている俺を助け、手当てをしようと言った彼はどっちの彼なんだろうか



自分の傷を手当てしながら
目の前でこれも不器用そうな手つきで、コーラをコップに注いでいるLuciferに聞いてみる



……トングで掴んだ氷を不器用な手つきでグラスに入れていた、あいつの顔がふと浮かんだ



どことなくチョン・ユンホと似ている…何故かそんな風に感じた



〈どっちの僕も、僕じゃないのかもしれないね〉



コーラを俺に手渡してくれたLuciferは
蒼い人工的な瞳に哀しみの色を浮かべていた



チョン・ユンホが過去に負った哀しみ
Luciferにこんな目をさせる様になった哀しみ



その二つの哀しみがどれくらい深いものなのか
俺はまだ、知る由もなかった






にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
別窓 | 渇欲 | ∧top | under∨
| HOME |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。