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華筏 第2章 ~星鏡 14~
2017-02-27 Mon 18:00


このお話はフィクションです
BL表現を含みます
ご注意ください






ユノの愛を
身体の一番深いところで受け止めた僕は…快楽のそれと同じくらい心も満たされる



彼を愛し過ぎているから、この人と何度身体を繋げても足りない…
そんな欲張りな自分が恐ろしかったけれど



今夜の僕は
星鏡の湖に報告した自分の小さな成長のおかげか



僕だけへと注がれるユノの愛を
この上ないくらい、堪能していた



髪を洗う彼を残し、先にバスルームを後にする
指が…描く事を欲していたんだ



バスローブ姿のまま、アトリエに飛び込む



描きたかった残りの部分がうまくまとめられず
何度も描き直してそのままになっていた100号サイズのキャンバス



何かに取り憑かれたかの様に木炭を手にして、残りのデッサンをあっという間に仕上げる



湖の水面を燃え上がらせた夕陽を…描きたかった



花々がその終焉の美しさを競い合う姿を描いた、僕の代表作「華筏」



その美しさのキャンバスだったのがあの星鏡の湖だ



夕陽を映し出した星鏡の姿は
華筏のキャンバスだった時の「静」ではない「動」の美しさだった



僕の大切な人であるユノの瞳の様な僕の大切な場所



その場所に映った新しい美しさ
それを僕の記憶として自分の手で描きたかった



『さあ、色をつけようか』



炭で汚れた僕の手を、包み込むようにして濡れタオルで拭ってくれたユノが言う



いつの間にかお風呂から出てきて
集中してデッサンを仕上げる僕の姿を、後ろから見ていたんだろう



暖房が効いているから、僕はバスローブ姿のままだったけれど
ユノもまた、僕とお揃いのバスローブを纏ったままで



彼の首筋はまだ
シャワーのお湯の温もりを残したまま、ほのかに湯気を出していた



「星鏡の湖の…新しい姿だよ」



僕の手を拭ってくれた後
そのまま背後に回って、僕を抱きしめる様な体勢でキャンバスを見つめるユノに言う



『さっきと同じシチュエーションだね、チャンミン』



濡れたままの僕の髪に顔を寄せ、耳元でそう囁くユノ



湯気を立てるユノの温もりが、すっかり湯冷めしてしまった僕の身体を温めてくれる状況は
さっき湖のほとりで抱きしめられた時と同じで



そして、目の前のキャンバスに僕が描いた湖が



さっき二人で眺めていた星鏡の見事な夕焼けを
どうやらユノにも合格が貰えるくらい再現出来ていたらしく
ユノは、そう言ってくれたんだと思った



「あなたの見た色を…僕に乗せてください」



右手でユノの顔を引き寄せ、そっと口づける
甘く柔らかいユノの唇が僕のそれをしっかりと捉えて、食む様に応えてくれる



『まるで炎が燃えているみたいな色だったんだ…
俺のさ。チャンミンへの想いを湖が形にしてくれたのかな』



ユノのバカ
そんなキザな台詞をどこで覚えてきたの?



ユノはズルい
自分で言ったくせに、照れて顔を背けるなんて



僕に、見せて
あなたのその想いを
僕が、描くから
あなただけのために



顔を背ける彼の顔を、今度は両手で引き寄せる
甘噛みするみたいな口づけを、ユノの全てを奪いつくすみたいな激しいものへ変えてゆく



この絵は…僕と彼の愛の証



僕の想いをデッサンして
ユノの想いを色付けて



そして、一枚の作品へと姿を変えるんだ



僕というキャンバスにユノが色を乗せてゆく
彼の唇が指が、木炭と筆になって



産毛を撫でる様な軽いタッチが僕の胸の控えめな突起を往復する



それだけで、身体がひどく熱くなってくるのは
僕の絵が、描いた主をユノへと捧げているからかもしれない



ユノと初めて口づけを交わした時も
僕はこうして自分の書いた作品の前で
ユノと自分の絵に絡めとられたんだ







『チャンミン…この絵が出来上がった時、チャンミンへ伝えたい事があるんだ』



両手で戴くようにして僕の指に口づけたユノが、そう告げた時



最奥へと再び注がれた彼の深い愛の余韻で
僕の身体は小さく波打ったまま、その声を遠くで聞いているみたいだった








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渇欲 41
2017-02-26 Sun 21:00


このお話はフィクションです






この屋敷を探すときは登りだった坂道を
成長できてない自分のガキっぽさにため息をつきながら下って行く



俺の嫌いな自分の下がった肩が余計に下がっている気がした



何しろ年下相手の言葉に乗せられてけんか腰になってしまい
話もろくに出来ないまま追い出されるという、最悪の結果になってしまったんだから



チョン・ユンホと向かい合った時に嫌という程味わった、年齢の差だけではない大きな差



こういう時にそんな事を思い出し
情けなさに自ら拍車をかける







事務所に戻るために乗った地下鉄



窓に映る自分の姿はやたらと悲壮感満載で
そんな姿を見ていたら、さっき見たLuciferの哀しそうな顔が脳裏をよぎった



あの男は…チョン・ユンホの何なんだろう



俺があいつと会っている…と言っても俺が望んでそうしている訳ではないが、その事を何故知っているんだろうか?



そして何故、あんなに哀しそうな顔をしたんだろう



今週号の記事の骨格が出来たらまた会いに行ってみよう…そう思いながら駅に降り立った



事務所に戻ると、ミノも戻って来ていて
ギプス姿とは思えないほどテキパキと作業を進めていた



今週号に載せる記事を書いているんだろう
パソコンに向かい、ギプスをした腕を庇いながら黙々とタイピングしている



こんな俺を信じてついてきてくれたミノ
一方、何の収穫も得ず戻って来た俺



そんな姿を見ていて、自分の反省モードが更に深みにはまって行く



パソコンを開き資料を作りながら
自分のこれからの生き方までも考えてしまう
やっぱり俺は、根本的にネガティヴ思考だ



アイドルの死の件で購読者のカウンターの数字は跳ね上がったけれど、それでもやっと四桁に乗っただけのウェブペーパー



鍵となる様な人物に会いながら話にもならないで帰って来る様な主筆が作る物に、どれだけの価値が有るのだろうか…



俺の目標は…あの男に言わせると実の無い物なのかもしれない



自分の力であんな大きな会社のトップへと上り詰めたチョン・ユンホ
そして、それでも満足せず更にそれを大きくしていこうとするヤツとは雲泥の差だ



〈どうしたんですか、ヒョン。さっきからため息ばっかりですよ〉



ミノのそんな声で
ドツボにハマっていた悪い癖であるネガティヴスパイラルから戻ってこれた



屈託のない顔のミノを見ていると…悩んでいることも何だか忘れられる



悩んでる時間が勿体無いな
彼が戻ってきた分だけ、今週はもっともっと記事に厚みをもたせたい



ちょうどそのタイミングで、ビッグニュースが入ってきた
大統領に汚職の疑惑が持ち上がったらしいというタレコミだ



大手の新聞社も、今頃こぞって青瓦台(ソウル特別市にある大統領官邸)に急いでいるだろう
俺も事務所の後片付けをミノに頼み、慌てて飛び出した



政界を揺るがす様な大きな動きを追うだけで
あっという間に週も半ばを過ぎた



政治でも企業関連でも時事問題で大きな動きがあると
胸がわくわくして余計に時が経つのが早く感じたのかもしれない



読者数を増やすためにタブロイド紙もどきの芸能ネタも書いているけれど
やっぱり俺は、こんな風に社会の大きな問題に向き合ってる時が一番自分らしいって思う



落ち込んでたのもどこ吹く風で、ここ数日間は多くの記者に紛れながら青瓦台周辺で取材に当たっていた



その一方
夜にはチョン・ユンホの例の店の監視も続ける



政財界の人間が多く出入りする場所だから、今回降って湧いた汚職疑惑にも関係する様な人物が来るかもしれない



明日中には今週号の記事全般をまとめたい
週半ばになってようやく、おおよその骨組みが出来てきた



店の監視をしながら買ってきたキンパを口に放り込み、手元ではスマホで記事の作成に取り掛かる



それにしても
あれだけ清廉潔白が売りだったはずの大統領に、何故降って湧いた様にこんな話が出てきたんだろう…



調べてみた感じでは、事情をよく知る内部の者の密告が話の原点だったみたいだけど
俺は、それよりも大統領の身内が怪しいと睨んでいた



大統領には二人妹がいて、その片方の配偶者が運営している財団法人が施設の土地を得る為に問題を起こした事があった



その際助けを求めてきた義理の弟に対し、大統領は自分で解決しろと一喝したらしい



側から見れば大統領の対応の方が正論に思える



でも、この弟は義兄が大統領選に出馬する際に自分が各方面への根回しをしたという自負があるらしく、その恩を仇で返されたという歪んだ恨みを持っていたとしてもおかしくは無い



自分の頭の中で疑問を組み立てながら
それを文章に起こしていく
俺の中でこういう時が、最も充実している時間かもしれない



道路の向こうの【紫蘭 Hyacinth orchid】は
今日も多くの人で賑わっている狎鴎亭の街並みの中で、何故かそこだけがひっそりと静かに佇んでいる様に見えた



この重厚な石造りの店の中で繰り広げられる多くの陰謀や謀略を
…沈黙へと変えているかの様に



その沈黙は



行き交う多くの人達の中に紛れ、ひっそりと俺を見つめていたこの店の影のオーナー、チョン・ユンホの



何の感情も表さない漆黒の瞳そのものなのだろうか…



この時の俺はまだ
その答えは見つけられなかった







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渇欲 40
2017-02-23 Thu 21:00


このお話はフィクションです






『そういえば…あの男はどうしている』



今日は珍しく俺の部屋に置かれているデスクで自分の仕事に向かっているジェウンに尋ねる



〈今日はとにかくこれを片付けて頂きます〉



決裁して欲しい書類を俺に内緒で溜め込んでいたらしく
大量の書類をドサっとデスクに乗せた後、黙ってパソコンに向かっていた彼が目を上げた



彼は普段俺の部屋の隣にある秘書室で職務についている
でも今日は俺の仕事の具合を監視するつもりらしく、自分の仕事もこの部屋で片付けている様だ



〈平倉洞のお屋敷に行って追い返された様です〉



『ほう。テミンからアポイントを取ったのか?
あれの行動力は買っているが、こんな短期間でテミンの存在を調べ上げる程ではないだろう』



ジェウンは秘書室の部下にインターフォンでお茶を運ぶ様に言ってから、俺の元にくる



〈左様です。テミン様からシム・チャンミンへとアポイントを取った様ですが、本題に入る前に衝突して話にもならなかった様です〉



『フフフ…』



俺が笑った事が余程意外だったのか
ジェウンは豆鉄砲を食らったかの様に目を丸くした



『どうもあれは血の気が多いな。
それくらいの年頃というのもあるんだろうが』



二言目には目を釣り上げて食ってかかってくるあの男を思い浮かべる
そのくせ、すぐに次の言葉を失いあからさまに意気消沈する浮き沈みの激しい性格だ



シム・チャンミン…



そんな性格の男が、俺の腕の中では艶やかな悦楽の表情を浮かべるのだから…



人間というのは奥が深いものだ



〈いかがいたしましょう。
チョ・ヒョンミンにはテミン様から目を離さない様に念を押してありますが〉



『放っておけ。テミンはまだ子供だ。
何か面白くて刺激的なことを探しているだけだ』



かしこまりました、とジェウンは言い
自分の席に戻って再びパソコンへと目を向けた



ジェウンの部下が淹れてくれたカフェオレを飲みながら一服する
これくらいの休息はジェウンも許してくれるだろう



あの男がテミンの安い挑発に乗ってムキになっている顔が目に浮かび、一度緩んだ顔がなかなか戻らない



どうもいかんな
自分の中で失ってしまった、無茶をできる若さ
その言葉そのものという感じのあの男がやたらと気になって仕方がない



ジェウンにしたら
手にしたばかりの新しい玩具を、今回はやたらと気に入っているな…ぐらいに思っているんだろうが



彼から聞いた話しが俺には楽しみとなり
やたらと溜め込まれていた山のような書類も、順調に減っていった






〈今夜は代表が推薦なさった新しい検察庁長官との席を【紫蘭】に設けてございます〉



山積みになった書類を片付け終えた後で、ジェウンが切り出した
俺に拒否されない様に、相変わらず予定をぎりぎりまで言わない彼の悪い癖



『嫌だとたまには言わせろ、と言いたい所だが…
相手が相手だけに今回も黙っていてやる』



車のミラー越しに目礼するジェウンに小さくげんこつを見せてから、車窓へ目を移した



最近、日々の移ろいがやたらと早い気がするのは
俺が年齢を重ねてきたからだろうか…
あの男をベッドの上で抱いたのはつい昨日の様だ



今週末
シム・チャンミンの作るウェブペーパーはどんな展開を見せるのだろう



文章になると冷静で鋭い切り口なのに
実物は短気でせっかちな性格が口調にも表れて、やたらと先を急いだ喋り方をするのが面白い



あんなにはっきりとしたきれいな顔立ちで、背も高くいかにも女にもてそうな見た目のくせに
自分に自信が無さそうに、猫背になっているあの男…



テミンとの件を聞いてから、どうも奴の事ばかり考えてしまう



〈代表。【紫蘭】手前の交差点が事故で渋滞している様です。歩かれますか?〉



ジェウンの言う通り、それでなくとも混雑する時間帯の狎鴎亭が、車のテールランプで埋め尽くされていた



『そうしよう。今日は寒さも緩んでいるし、誰かのおかげでずっと座りっぱなしだったからな。少し歩くとしよう』



前を走っていた護衛の乗る車へと無線で連絡したジェウンは
ミラー越しに睨んだ俺から目を逸らして車を停めた



先に停車して降りてきた護衛がドアを開ける
ジェウンは、もう一人に車を預けて俺と一緒に歩き出した



〈テミン様はお寂しいのではないでしょうか〉



雑踏を進む途中ジェウンは
俺に聞き逃されてもいいと言うくらい小さな声でポツリ呟いた



『俺がそうさせたんだ。もう言うな』



〈はっ、申し訳ございません〉



ジェウンは小さく頭を下げ、歩調を緩め数歩下がっていった



テミン…
彼から全てを奪い取ったのは俺だ



家族も、立場も
そして人としての感情も…



〈天使だと思ったのに…
貴方は堕天使、悪魔だったんだね〉



俺を見つめ美しい涙を零し
そして笑いながらそう言ったテミンの顔が



俺の頭でさっきまで浮かんでいた
シム・チャンミンとの楽しかった記憶の回顧を打ち消していった







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華筏 第2章 ~星鏡 13~
2017-02-20 Mon 18:00


このお話はフィクションです
R18要素を含みます
ご注意ください






氷を張り始めた夕刻の湖が
いつもと違う色で僕を迎えてくれる



僕の目は…色を映さないけれど
眩しいくらいの夕焼けをその水面へと映している様は、遠い日の記憶を蘇らせてくれた



鮮やかなオレンジ色の夕陽は
静寂の似合う星鏡の湖を一変させる
そう…情熱的な炎を燃え上がらすかの様に…



小さな決意を携えて訪れた僕を
遠い日の記憶に残る鮮やかなオレンジ色が後押ししてくれる気がした



ユノの世界を、僕も共有したい
僕の目の代わりになってくれたユノが、僕の世界を共有してくれている様に



いつまでも小さな世界に留まって生きるのではだめだ…



大好きな人と出会えたのだから
その人の世界を共有して、共に生きて行く方が二倍の幸せを味わえる気がした



ふふ…やっぱり僕は欲張りなんだ



今でも十二分に味わっているユノとの幸せを
更に倍にしようと言うんだから…



画家である僕が〈色〉を失った時の絶望から立ち直らせてくれたのは、従兄と姉の二人だった



今回味わった言い様のない不安には、僕はどうやら一人で立ち向かえた様で
そんな小さな前進も、大きな収穫となる



それがやけに嬉しくて
目を閉じ手を組んで、湖へと祈りを込める



不安な心の葛藤にも、一人で立ち向かえる様になったと
僕を静かに見守ってきてくれたこの湖へと報告をするかの様に…



夕焼けを映し出す星鏡の湖が、まるでオレンジ色の水面でふわっと包み込んでくれたみたいな…
急にそんな温もりで覆われた



『チャンミナ。ただいま』



愛しい人が
ユノが僕を背後から抱きしめていた



「ユノ…おかえりなさい」



胸の前で重ねられる彼の腕に、僕も自分の腕を上げ合わせる



僕の祈りが届いたんだろうか…
僕の小さな成長を祝うかの様に、愛しい人がこんなに早く帰って来てくれた



この人は、僕の湖だ



僕を見つめる夜の星鏡の湖の様なその瞳
僕を夕焼けの様な温かい色で包み込んでくれる腕



そして、僕の心を支えてくれる広く大きな胸…



「ユノ…星鏡の湖の夕陽は、あなたの目にどんな色に映ってるの?この色を、僕に描かせてくれる?」



今の気持ちを、キャンバスに残したかった
これからの僕が描く作品は全て、この人との愛の証になるから



『家に帰ってアトリエに行こう』



会社から帰って来て家でコートを脱いだ後
僕が見当たらなかったからスーツ姿のまま探しに来たんだろう



そう言って僕の手を取る彼の手は
すごく冷たかった



「その前にまずは…お風呂で冷えた身体を温めて」



そう言ってユノの手に口付ける
唇にも彼の手の冷たさが伝わってくる



その冷たさは
僕の事を想ってくれるユノの心の温もりと正比例しているんだと思った



『そうしよう。星鏡の湖に映る今日の夕焼けの色は、すごく情熱的な朱だったけど…
チャンミンの心の色を映してるのかな?』



ちょっとだけイジワルな顔をして
その柔らかい唇で、僕の口を塞ぐユノ



ズルい
そんなことをされたら、僕は…







玄関に辿り着くや否や
その口づけは、深く激しいものへと変わってゆく



僕には見えるはずのない夕焼けの朱がそうさせたんだろうか…



ユノの目に映ったであろう炎の様な朱が、彼の舌にも移っているかの様で
僕はそんな情熱的なキスを受け、立っていられなくなる



『チャンミナ…』



僕の腰を引き寄せ、支えてくれるユノの身体もまた
さっきの冷たさが嘘みたいに熱くなっていた



二人の身体がもつれるようにしてバスルームへと移っていく
どうやってお互いの服を脱いだのかも分からないくらい、あっという間の出来事だった



「ユノ…」



こんな時の僕は彼の名を呼ぶのが精一杯で
ユノの指や唇に思考を混濁されられてゆく



少しぬるめのシャワーでも逆上せてしまう程のユノの熱
彼に重なりながら壁に追いやられても、タイルの冷たさがむしろ心地良い



腰に添えられた手がゆるく滑り落ちて窄まりへ辿り着いた時にはもう
僕の身体は全身で愛しい人を求めていた



ユノが僕達に降り注ぐシャワーを止める
僕の顔にかかっている雫を指で拭ってくれるから
僕はユノの頰の雫を舌で掬う



それが合図だったかの様に
僕を求めていたユノ自身が、僕の身体の中へと入ってきた



この人のことを身体が全部覚えているみたいで
彼が腰を押し進める度に、僕のそこはカタチを変えながら迎えてゆく



「あぁ……」



僕の一番深いところで、彼の想いを感じ取る
ユノは僕の耳殻を軽く食みながら、ゆっくりと身体を動かす



それは



自分の快楽を導き出す様な激しいものではなく
僕の身体の中に居る事を満喫する様な…そんな感じがした



『チャンミンの中はすごく熱いよ…』



僕の頭の中を見抜いているみたいにユノが言う



「ゃ…そんなこと…」



間近で僕を見つめるユノの目が、言葉で僕の反応を楽しんでいるみたいで



…すごく、艶かしかった



『目の縁の色だ…星鏡の湖の朱と同じ色だよ』



ユノの舌が僕の目の縁を這う



言葉だけではなく、そんな行為もまた僕を追い詰めてゆく



「ユノ…もう…お願い。僕、ダメみたい」



上げていた片脚を曲げて、彼の腰を抱え込む
僕の中のユノが…質量を増したのが伝わってきた



『チャンミン……』



苦しそうで切なそうな声をあげながら
ユノは…僕の腰をグッと引き寄せた







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渇欲 39
2017-02-19 Sun 21:00


このお話はフィクションです






光沢のあるワイン色の上品なスーツ
胸元にフリルの施されたシャツはシルクだろうか
その見た目と相まって、王子様の様な風貌の男



俺よりも若いって事は、その肌が艶々してることで分かる
とはいえ俺だってまだ二十代半ばなんだし、彼は二十歳そこそこって感じか



にこにこと微笑む彼の見た目からは
〈Lucifer〉…堕天使を名乗るメールの送信者とは何だか結びつかなくて、思わずまじまじと見つめてしまう



〈シムさん、どうぞかけて下さい。“込み入った話”は、立ったままでは出来ないよ〉



Luciferは彼に送ったメールの文言を引用して俺にそう言うと、幼い笑顔を一転させた



俺を見上げる様に鋭い視線を投げかける
その碧い目は、どこか人工的な不自然さを感じた



そう、まるで人形の様な…生きているそれとは違う違和感



俺、こんな感じをどこかで味わった気がする
…そう、あの男と向き合っている時に感じたんだ



無表情で何の感情も顔に出さないチョン・ユンホに、何処となく似てる気がした



有無を言わせない様な言い方も、どこかヤツとかぶる気がしたけれど
こういう金持ちには共通するものなのかもしれないと思い、促されるがままソファーに座る



さっきの男がワゴンに乗せた紅茶を恭しく運んできて、俺とLuciferの前に置いた



〈じゃ早速、“込み入った話”をしましょうか。
シムさん、あの男をどうしたいと思ってるの?〉



Luciferはメールと同じように、丁寧そうで馴れ馴れしい独特な言い方で切り出した



「え…?というより、先ず先にお話ししたい事があります。名前が分からないからとりあえず、Luciferさん。

あの様な高額の広告費は理由も分からないまま頂くわけにはいきません。お返ししたいと思います」



家の様子だけでも見よう…と思っていた予定と反し
いきなり本題に入ってしまった状況を整理しつつ、俺も大事な事から彼へ返した



〈チッ…〉



品の良い部屋に仕立ての良い服
おとぎ話に出てきそうなその見た目と裏腹な、彼の舌打ちに驚いた



〈あのさぁ、あのやる気に満ちた記事は上辺だけ?あいつと寝たら、もうそっちに夢中なの?

どこの新聞社にも書けない“事実”を書けるって僕は思ったんだけど…〉



!!!



この男…何で俺があいつと寝た事を知ってるんだ!?
俺の顔にはまず間違いなく驚愕の表情が浮かんでいただろう



〈ふーん。やっぱりもう寝てたんだ。
そうかなーと思ってカマをかけてみたんだけど、シムさん分かりやすいなぁ〉



何だって?!
畜生!このヤロウ、舐めやがって…
殴りかかりたい衝動に駆られるも、何とか踏み止まる



Luciferは尚も不敵な笑いを浮かべながら続けた



〈記事を読んで“この人なら”って思ったけど、僕の見込み違いだったみたいだね。
もういいや。どうぞ思う存分、あいつとのベッドを楽しんで〉



Luciferは蔑んだ様に俺を見下ろしながら、そう言った



「ちょっと待てって。俺の話をろくに聞かないうちにそんな結論出すなよ。
そもそもさ。俺の名前も何も知ってるくせに、そっちは名乗りもしないってどうなの?」



頭にきた俺は、立ち上がったLucifer腕を掴み食ってかかる
するとLuciferは目をまん丸にしてジッと俺を見た後、〈ウフフ〉と笑い出した



〈ごめんね、ほんとシムさんの言う通りだ。
僕はイ・テミン、20歳。血液型はB型で、好きな食べ物はお肉…〉



「あのね、ふざけてんの?金持ちだからって人のことバカにすんのも大概にしろよな。
そんな見た目で韓国人?そっか、カラコンしてんだな」



唄う様な言い方が人を小馬鹿にした感じだったから、我慢の限界にとうとう達してしまった俺は思わず語気を強めて言い返す



たかが二十歳そこらのガキにバカにされる覚えはないしな



「外人にでもなりたいの?そんな金髪にしてさ。
カラコンで目まで碧くして念入りだな」



得体の知れない金持ちに身構えていたけれど
あいつとの事を知られてるのであれば、おそらくはチョン・ユンホと近い存在である事は確かだし



そう分ればある程度緊張の糸も解けてきて
俺らしいいつも通りの元気さで相手への嫌味も出てくる



…と言うより、空元気とでも言うのか
あいつとの肉欲に溺れていっている“事実”を見抜かれた事で、必要以上に動揺してるのかもしれない



〈シムさん。人にはそれなりの深い事情っていうのがあるでしょ?
シムさんだってさ、あの大物の男娼っていう深い事情を人に言われたら嫌じゃない?〉



人工的な碧い瞳に怒気を滲ませて俺を見つめる



「誰が男娼だよ!!いい加減にしろよなっ!」



こういう風に最後まで我慢しきれない所が
いつまで経っても大人になりきれない原因で
あいつとの決定的な人間の器の違いなんだろう



大人気なく自分よりも小柄な年下の男に掴みかかった俺は
あっという間に実直そうなスーツの男に取り押さえられた



《お帰りください、シム・チャンミンさん。
この様な状況では主とは話もままならないでしょう》



眼鏡の奥の目が哀れむ様に俺を見る
この男は、Luciferの秘書か執事だろうか…
首根っこを抑える様なやり方はせず、ただひたすら冷たく目で見つめてきた



チョン・ユンホの秘書の様な温厚な見た目のタイプとは違い、きっとこの男は見た目そのもので
冷静に物事を進めていきそうな印象を持った



ちょっとの事でカッとなる俺とは…正反対だ…



目の前のLuciferの方も俺が言った言葉が相当気に障ったらしく
肩を強張らせながら俺よりも先に部屋を出ていこうとする



ドアに怒りをぶつける様にバタンと大きな音を立てて閉めた



会いにきた相手が居なくなってしまっては、これ以上ここにいる意味もなく
俺もさっき入ってきたばかりの玄関へと足を向けた



偵察するどころか
自分の直さなくてはならない悪い部分を痛感するという失態を犯した俺
ほんとガキだよな…



すごすごと屋敷を後にして庭を歩く
門まで来たところで視線を感じ、振り返ると
大きなバルコニーに立つLuciferが俺を見つめていた



どうしてだろう…
間近で見た時は、まるで人形の目みたいで
やたらと人工的な違和感を感じた彼の碧い瞳が
なぜか…哀しそうに見えたんだ



もう一回会いに来なくてはいけない…
そう思いながら、俺はそのまま屋敷を後にした







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渇欲 38
2017-02-16 Thu 21:00


このお話はフィクションです






“シム・チャンミン代表

込み入った話がしたいということは
こちらの申し出を了承したと受け取った

面倒くさいのは嫌いな性分なもんで
遠回しなネゴシエーションは必要無い

堕天使に会いたいのなら
昼間は平倉洞×××番地の家に
夜は狎鴎亭△△番地のビルの地下に来て

面倒だからアポイントとかも要らないよ

Lucifer”



メールを読んで、ゴクリと生唾を飲む
いわゆるガセネタを持ち込んでくる様な輩とは違う何かを、妙に端的なこのメールから感じ取った



丁寧な様で、馴れ馴れしくもある
年齢を重ねているようで、若そうでもある
そんな印象を持ちながら何度もメールに目を通す



俺が何を目的にしているのか、メールの送り主は分かっている様に思えた



この二週で俺が書いた主な記事
直截的な書き方でないにせよ、背後の者の存在を仄めかすものになっていた



Luciferへの返信に“アイツ”という存在が誰かを確認する為にあえて書いた行がある
そこでターゲットは数名いるとしたが、その件に関しては一切スルーされている



だからLuciferが“アイツ”と呼んだのはチョン・ユンホの事に間違いない



ヤツをよく知る近い存在なんだろうか
チョン・ユンホとは敵対する存在で、俺を使ってヤツを追い落とすつもりなんだろうか



分からない…
そもそも、あんな莫大な額を払えるのであれば
俺の所みたいな弱小の新聞社なんかでは無く、大手の新聞社でも出版社でも使えそうなのに



会うだけあってみるか
何かヤバい感じがあれば、あの金は即返金すればいい



っていうか
あんな金額なんか簡単に受取れる訳がない
出来れば会って返したいと言った方が良さそうだ



“昼間は平倉洞×××番地の家に”ってメールに書いてあった



平倉洞(ソウル北部にある高級住宅街)に家があってそこに住んでいる人間なのであれば、そんな額面も大したことは無いのかもしれないが…



ああいう世界の人間は、俺の数日の生活費が数分で消える様な暮らしをしていると
チョン・ユンホと過ごした時間で実感した



もしかしたらLuciferも、そっちの世界に住む人間なのかもしれない



ミノも出かけてることだし、行ってみよう
言ってきた住所にある家を見るだけでもいいし



パソコンをロックしてからリュックを背負い、足早に事務所を後にした







平倉洞は北漢山(プッカンサン)の麓に広がっている地域で、坂も多い
ドラマの撮影にも使われることが多く、観光客もそれを目当てでよく訪れる場所だ



ソウルに生まれ、ソウルに暮らす俺にとって
テレビでドラマを見ているとはいえ、その撮影場所をわざわざ見に行くような気にはならないわけで



ここに住む人間を取材する時に訪れる程度で、平倉洞には全くといっていいほど縁がない



ホームセキュリティのステッカーがこれ見よがしに貼られ、その側に防犯カメラが動く家々の塀を見ながら目的の番地を探す



見た事がある様な外観の家があるのは、ドラマの撮影で使用した豪邸なんだろう



急勾配の坂が続き、足もだいぶ怠くなってくる
こんなに坂が多い所に住むなんて俺は嫌だ…なんて一生かかっても無理なことを思ってみたり



きっとこの辺りに住む人間は
アイツが乗る様な高級車でスイスイ坂を登っていくんだろうから関係ないんだろうな…



女みたいな身体つきを打ち消すためにジムへ通い筋肉は付けたものの
見た目重視のトレーニングだけで、下半身の強化なんかしなかったからこの様だ



これからはジョギングマシーンやバイクもやらなきゃいけないな…
立ち止まり怠い足をさすって考える



そんな俺の足を神様が気遣ってくれたのか
立ち止まった場所の目の前に、目的地の番地を表記した門構えの家が建っていた



「ふぇ~」



足の怠さに加え想像以上の豪邸に驚いた俺からは
そんな情け無い声しか出てこない



立ち並ぶ豪邸と同じ様に、この家もホームセキュリティーのステッカーが貼られ
門の上部から赤いランプを点滅させながら防犯カメラが監視を続けている



これだけの家に住む人間であれば、一生かけても稼ぐ事の出来ない様な額面をウチみたいな弱小新聞社に寄付同然に渡せるのかもしれない



古くからの豪邸とは違い、最近建てられたのだろうか
真新しいタイルで統一された外構の奥に建つ家もまた、白い外壁に包まれていて今風の造りに見えた



ギィッ…



建物を見上げる俺の目の前で、豪華な造りに相応しく重々しい音を立てて門が開いた



《チンシルウィークリー代表のシム・チャンミンさんですね?》

俺の耳に届いたそんな声



抑揚がなく落ち着き払った言い方に合っていると言えばいいのか
見上げた先にはきちんとスーツを着て銀縁のメガネをかけた、いかにも実直そうな男が立っていた



「え…あ、そうですけど」



と素直に返してしまったのも
その男の事務的な言い方が、役所で問われたみたいだったからだ



《中へお入りください。主が待っております》



そう言うと彼は背を向けて、さっさと門の中へと消えた



どうしよう…一瞬不安になったけれど
おそらくは今、この時も防犯カメラを通して俺の姿を見られているはずだし
此の期に及んで逃げるわけにもいかないって思った



真鍮で出来た門を閉めて、彼の後を追い階段を登る
白い外壁の家はまるで、ヨーロッパのどこかの国の写真で見たお城みたいだ



大きな扉を開けてさっきの男が待っている
俺が玄関らしきその場に辿り着くと、その中もまたお姫様でも出てきそうな造りになっていた



《どうぞ、こちらです》



相変わらず事務的に話す男に続いて屋敷の中を進む
細工の施された豪華な扉の前に立ち彼がノックをすると、中から〈どうぞ〉と少し高めの声が返ってきた



《お入り下さい。主が待っております》



きちんと両手を腿につけお辞儀をした男に促され、その部屋へと足を進める



〈ようこそ、シム・チャンミンさん。初めまして〉



美しい絵画の前に置かれた椅子に腰掛けていた男が振り返り、歩み寄る



韓国語の挨拶が似合わない金髪に碧い目をした若い男が
女の様な白い手を差し出して、ゆっくりと握手を求めてきた






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渇欲 37
2017-02-14 Tue 21:00


このお話はフィクションです






「いや、さすがにボーッとしてるよ!さっきも階段を踏み外しちゃってさ」



ミノが何かを指摘してきたわけでもないのに
チョン・ユンホのレクチャー通りに、朝帰りした事を言い訳している俺



言い訳っていうか
むしろ朝帰りをしたと自分から打ち明ける様になってるし



〈ヒョン!一度家に帰って休んで来たらどうですか?無理しちゃダメですって〉



ギプス姿の自分の方が、よっぽど無理をしてここに来ている感じなのに…
俺の嘘を鵜呑みにして心配するミノを直視出来なかった



自分の家のベッドより何百倍もデカくて上等な寝具に包まれて
快楽を貪り尽くした後の気だるい身体を休ませていただなんて…



自分がひどくおぞましいものに見えてしまう



「大丈夫!それよりも、今週号だ。
ミノが戻って来てくれた分だけ記事にも厚みを持たせたいから、もっと頑張らなきゃな」



ミノにではなく自分へそう言い聞かせて、デスクへと足を向けた



パソコンの電源を入れパスワードを入力する
買ってきたコーヒーを口に運びながら、起動するまでの数分間を待つのがいつもの俺の流れで
何故かそれだけでほっとしてしまう



あの男と一緒にいる時に感じる違和感…それは
超一流企業のトップとマイナーなウェブ新聞社トップの、住んでいる世界の差なんだろうか



生きている人間に平等に与えられているはずの空気すら
あの男とは違う物を吸い込んでいる様な気がする



そのくせ、チョン・ユンホに抱かれる度に
ヤツの色へと少しずつ変えられていっているような気がして



ヤツから与えられる快楽に抗う事なく
無様に溺れていっている自分…



起動中の暗い画面に映るそんな自分の姿を否定する様に大きく頭を振った



パソコンが立ち上がったのと同時にリュックから手帳を取り出す
俺だけの…大事な取材ノートだ



携帯電話が更に進化したスマートフォンという万能アイテムがあるにも関わらず
俺には、むしろこのアナログさが丁度いい



真っ白なページに、簡潔にまとめた一行を眺める



“スムダン買収の真実” ……



昨夜夕食を食べていた時
どこか楽しそうなチョン・ユンホが俺にいきなり賭けを持ちだした



高価そうだとしきりに言った俺に対し、そのワインの値段を当てさせたヤツ
俺が正解した時には、聞きたい事を答えてやろうと言った



『なぜスムダン電子がテソンの物になったのか…』



チョン・ユンホは俺にそう言って、俺を煽るようにニヤッと笑っていたっけ



俺が知りたいと思っている事…
それを見抜いているかの様に切りだした一言



『やれるものならやってみろ』
ヤツはそう心の中で言っていたんだろうか



それとも



俺が答えに行き着くことがないと
高を括ったヤツの油断が漏らしたヒントだろうか



いずれにせよ
俺が書いた一行の中に、全てがまとまっているんだと確信した



一人のアイドルの死…この事が
俺が書いた一行の中で大きなネックになってくるんじゃないか



発見後されたその日中に自殺としてあっさり処理された事
所属していた芸能事務所社長が、彼女が悲劇のヒロインになった背景を涙ながらに話していた事



そして、それが全てである様に報じたマスコミ…



警察も彼女の事務所もマスコミも
その裏にいる、とてつもなく大きな何かに
操られていたんじゃないだろうか?



とてつもなく大きな何か…
それがチョン・ユンホであるに違いない



あの男に初めて会った時に受けた衝撃を、今でもはっきりと覚えてる



全てのものがひれ伏す様な圧倒的存在感はきっと
全てが自らの手中に収まっているからこそ、自然と備わってきたんだと感じた



ぶるぶるっと身体が震えたのは
対峙するターゲットの巨大さに怯んだからか



それとも



その男に植え付けられた官能の記憶が体内で疼いたからか



ミノが取材に出かけた事にも気づかないくらい、あの男の記憶と苦戦していた俺は
スクリーンセーバーに設定しているキャラクターが動く画面を、ひたすら見つめていた



ポケットのスマホが震えた事で我に返った俺は、マウスを動かしてパソコンの画面を呼び戻す



スマホの方は新商品を知らせるネットショップののメールだったけれど



パソコンの受信トレイには〈RE: 〉とだけ表記されたメールがあった



それは
広告費という名目で多額の金を振込んできた
“Lucifer”からの返信だったんだ







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華筏 第2章 ~星鏡 12~
2017-02-11 Sat 18:00


このお話はフィクションです






ユノと久しぶりにゆっくり過ごせた休日
あの日、星鏡の湖へ舟を出した時に言っていた通り



湖は程なくして、そのほとりから薄氷を張り始めた



あと半月もすれば一面が氷で覆われて
いつにも増してひっそりとした静寂に包まれ、ただひたすら春の訪れを待つようになる



「仕事は楽しいか」と問うた事に
『楽しいと言うより嬉しい、かな』と答えたユノ



その真意は聞けないまま
彼は再び仕事に追われる日々に戻っていった



帰宅が深夜になることもしばしばで
僕は、隣に出来ている冷たい空間に触れながら
一人でベッドに横になる毎日が続いた



彼と想いを通わせ、共に暮らし始めたあの頃は
こんな風に一人でいる時間が主になるなんて思っていなかった



でも
現実は現実として受け止めなければならない



僕の家で一緒に暮らすようになったけれど
それはただ、居住空間を共にしただけだ
それ以外のユノは、僕が知らない空間での新しい道を歩み始めた



前の会社が倒産するという悲劇の最中、出会ったユノと僕
その後、僕との交際を父に認めてもらったユノは、父の元で働き始めた



僕の居ない場所で、ユノの新しい生活が始まったという事実
僕の知らない、ユノの時間…



そんな時間が存在することさえも厭わしいと思ってしまう



わかってる
全部僕のワガママだって事も



ユノが好き
好きっていう言葉では言い尽くせないほど



彼を知れば知るほど、僕はのめり込んでしまい
好きになればなるほど、僕だけのものでいて欲しい



僕は、ワガママで欲張りだ



この家にあの人を閉じ込めてしまいたい
そんな事まで脳裏をよぎる自分が恐ろしくなる



こういう時は…決まって筆も走らない



先週から下書きを始めていた新作
キャンバスに向かっても木炭は宙に浮いたままで
僕は溜息をひとつ吐いて用品を片付けた



僕の気持ちを慮ってか、今日は空もどんよりとしている
この感じでは今冬初めての本格的な雪が降るかも知れない



星鏡の湖のあの美しい水面が姿を消してしまうから…僕は冬が嫌いだった



ユノと始めて一緒に迎えた冬は
そんな僕を一転して冬好きにさせた



星鏡が見られない寂しさを彼が消してくれただけでなく
冬の夜の長さというものが、彼の腕に抱かれて過ごす幸せを満喫させてくれたからだ



「冬なんか…嫌いだ…」



どんよりとした空模様を睨みながら呟く
ユノが居ない冬の夜は…今度はその長さが寂しさを増幅させるから



アトリエから出て一階に降り、リビングに入る
気分転換にこの前貰ったハーブティーでも淹れよう



「寒っ……」



人気が無かったリビングは暖房を入れても直ぐには暖まらない
セーターの袖を伸ばしてその中に手を縮こめて
自分の息で、冷たくなったその白白しい手を暖めた



ユノは今頃どうしてるのかな…
仕事場は、どんな感じなんだろう…



頭の中は、やっぱりユノの事だらけで



〈そのうちユノ君についての研究論文でも書きそうだわ〉



そんな事を言って姉さんに笑われた事を思い出した



父さん…
そんな風にまだ呼ぶことは躊躇う間柄だけれど



亡くなった母と、手元に置けず苦労をさせた僕への罪滅ぼしという名目で
父が作った美術館を運営する財団法人



母を失い外国から単身でソウルに戻ってきた僕に、肉親の中で唯一接点を持ってくれた二番目の姉はそこで代表を務め、ユノも当初はそこで働いていた



今年秋の異動で、ユノは父直属の部署に配置されたとだけ姉から聞いていたけれど
詳しい事は誰も何も教えてくれなかった



そこに何か深い理由あるのか
それとも、特段言う必要がないと判断されて教えて貰えないだけなのか…



そういうことを考えてしまうと僕の悩みは一層深くなってしまいそうだから、考えるのはやめていたけれど



この間から
僕の心の中に、うまく言葉で説明出来ない正体不明の闇が作られて



その闇が、気にしない様にしていた事も再び掘り返してきてしまう



姉さんにそれとなく聞いてみようか?
僕にはその程度しか手段もないんだけれど



まさか此の期に及んで
名ばかりの父親を訪ねて行くわけにもいかないだろう…



ユノと出会い彼と恋に落ち
それをきっかけにして父とも初めて会った



初めて会った父は
自分の中に流れる血をその見た目で感じるくらい似ていたけれど



それを嬉しいと思えない事情が僕には根深くある



本家…
父達が暮らしている家にも、もう何度となく呼ばれているけれど足は向くことは無い



二番目の姉が居るとはいえ、本妻の長女であり父の会社で本部長を務めているもう一人の姉と
その母親である父の本妻がいる家に、どうして僕が行けるだろうか



二番目の姉いわく、僕が母のお腹にいた頃に会社の相続者争いで立場が危うかった父も
その争いに打ち勝ち、会社をこの国で一二を争う様な大企業に創り上げた事で



本妻の発言も一切抑えられる様になったらしく、僕を正式にシム家の長男として迎え入れることに同意しているとの事だけれど



僕は……



このまま一人、殻に閉じこもる日々を送っていて良いのだろうか?



最愛のユノは今、その父の元に居るのだから
僕もまた、少しずつ新しい世界へと足を踏み出していかなければならないんじゃないか?



僕が父を拒絶しなければ
その側にいるユノにも、更に良い影響をもたらすことができるかもしれない



そんな風に思った僕は
星鏡の湖が見たくなり、コートを羽織った



完全に凍ってしまう前に
僕のそんな小さな決意を、湖の水面に聞いて欲しかったんだ



来年の春
美しい華筏を見せる為、少しずつ硬い蕾を準備する樹木の様に



僕もまた
少しだけでも、何かを芽ぶかせたかった







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渇欲 36
2017-02-08 Wed 21:00


このお話はフィクションです
R18要素を含みます
ご注意ください






手探りの状態でゆっくり揺れていた俺を
チョン・ユンホが許してくれるはずも無く



しびれを切らしたヤツの下からの激しい突き上げを受けた俺は



悲鳴にも似た声をあげながら未知の快楽を貪り、やがてヤツの腹に欲を吐き出した



ぐったりしてヤツの胸元に倒れこむ
乱れる呼吸を整えたかった



チョン・ユンホは
俺がそんな風に恍惚の余韻を味わう事さえ許さず
今度は体勢を入れ替えて俺の脚を抱える



さっきまでの激しい突き上げとは真逆に
浅い場所で留まったまま、今度はヤツがゆっくりと腰を揺らす



この男によって教えられてしまった至高の快楽
それを覚えてしまった俺は、そんな動きがもどかしく思えてしまい



あろうことか
先ほどのチョン・ユンホと同じ様に、下からヤツの脈打つそれを最奥へと誘った



狂っているのかもしれない…



ヤツによって抱えられていた脚を解き、揺れるチョン・ユンホの腰を抱き込む
逃さない…そう意思表示するかの様に



ヤツの抽挿が激しくなる度に身体の粘膜が擦れて熱くなり
その動きを更に刺激する様に自分の身体が収縮し始める



知ってはいけなかった筈の快感を存分に享受する様に、自分の身体をチョン・ユンホに合わせて揺らす



こんな情交は危険だという脳からのシグナルなのか、目の前にチカチカとした光が飛び交う
その光を避ける様に目を閉じた



薄目を開けて見上げると
チョン・ユンホは妖しげなあの微笑を浮かべながら俺を攻めていた



その歪んだ微笑は、悪魔の笑みなんだろうか…
抱かれる度に貪欲になってゆく俺を、加虐的な目線で楽しんでいるのかもしれない



俺は再び白濁を散らすまで
チョン・ユンホの背中に、何度も爪を立てていた…







激しい情事にどうやら意識を飛ばしたらしい



目覚めた時俺は
いつかと同じように、ぼんやりと白い天井を見上げていた



どこか遠くから聞こえている水音が
チョン・ユンホがシャワーを浴びている音だと判断がつくくらいに、少しずつ意識がはっきりとしてくる



枕元のデジタル時計は
日付が変わってから随分と過ぎた時間を表記していた



『気がついたか?』



シャワールームから出てきたチョン・ユンホが、タオルで髪を拭きながら俺に声をかける



「見ればわかるだろ」



可愛げもなくそう答える俺
こいつ相手に可愛げなんか必要ないんだから、別にいいんだ



「俺もシャワー浴びる」



そう言ってベッドから起き上がろうとするも、下半身を襲う鈍い痛みに床にへたりこんだ



「ちくしょー!こんなになるまでヤりやがって!!立たせてくれよっ」



悪態をつく俺は、全くの駄々っ子みたいだけど
ヤツはにやりと笑い腕を引っ張ってくれた



『お前がそうさせたんだ』



腕を添え支えてくれるチョン・ユンホに、耳元でそう囁かれる



「ウルセー!聞きたくないっ!!」



ヤツを突き飛ばしてシャワールームに逃げ込んだ



お前がそうさせた…
そんな一言で背筋がゾクッとした



ヤツの唇が
言葉を発するだけで身体の中の何かが疼く
ヤツの手が動けば
その手を掴みたくなる



細く長い指が
下唇だけやけにふくよかなその唇が
この俺に与えた快楽に結びついてしまうからだ



そんな自分が恐ろしくなってしまい
シャワーの水を全開にして頭から浴びた



身体に残された無数の紅い印もあえて意識せずに
バスローブを引っ掛けて部屋に戻る
するとチョン・ユンホは、既に見慣れた黒いスーツを身に纏っていた



「帰るのかよ」



思わず口をついた言葉



『なんだ。添い寝をして欲しいのか?』



そんな俺にチョン・ユンホは苦笑して答えた



「なっ…!違うって!あんたが帰るなら俺も帰ろうと思って」



と言っても、もはやこのホテルから家に帰る手段はない
当面の間、昼食抜きを覚悟してタクシーに乗るくらいか



『腕枕で夜明けを迎えたいと言うなら付き合うがな』



苦笑したまま腕時計をはめてドアノブに手をかけた



『俺は別の部屋で休む。
お前はここで休んで明日仕事場に行けばいいだろう。』



「ホテルから仕事場に行くなんて、堕落した社会人の見本みたいだ…服も昨日と同じだしな」



そう言いつつ
ヤツの言う通りここで眠るべく、キングサイズのベッドに身体を投げ出した



チョン・ユンホは目を見開き、今度は口元を抑えながら笑うんだ



「何だよっ!何かおかしいか!」



何もかもがバカにされてる気がしてしまうのは
年齢の差だけではない、多くの経験値の差なんだろうか
ムキになってすぐ突っかかる自分に嫌気がした



『チェ・ミンホには俺を夜通し張っていたとでも言えばいいだろう。
全く…何で俺がお前の朝帰りの言い訳を考えてやらなければならないんだ』



そう言うヤツに目がけて枕を投げつけるも
チョン・ユンホは素早くドアを開けて、部屋を後にした



そんなチョン・ユンホに思う存分罵声を浴びせた後



俺は、ヤツに抱かれた疲れで
あっという間に眠りの中へ落ちていった







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華筏 第2章 ~星鏡 11~
2017-02-05 Sun 18:00


このお話はフィクションです





ヒチョルさんが持たせてくれたサンドイッチを持って、星鏡の湖に向かう



僕の手はユノの手の中に包まれるだけではなく
彼のコートのポケットにも温もりを貰っていた



僕の家から程ないこの湖には、生い茂る樹々の間を抜けて行くから
陽の当たらないこの道は何だか寒々しいのだけれど



僕のこの手は…ユノの愛で幾重にも守られている気がした



『もうすぐ星鏡の湖にも冬が来るな…舟を出すのも今日が最後かな』



そう言うユノの手は、その事が寂しいからか
握っていた僕の手をもう一度ギュッと握り直す



そう
冬が来れば、湖の一面が凍ってしまう
僕の好きな碧い水面も…春まで見られなくなってしまうんだ



彼と迎える二度目の冬
愛を深めれば深めただけ欲張りになるのと同じで



この湖が凍ってしまう事さえも
そうならないで欲しいと思ってしまう



一面が氷で覆われてしまえば



碧い水面も
星鏡と呼ばれる所以である、夜空の星を写す鏡の様な漆黒の水面も



見る事が出来ない…



今日の僕は何だか変だ
こんなにも彼の愛を独り占めしているというのに



心に芽生えた不安は
この人でなくては消せない
僕は歩きながら、ユノの肩へと頭を乗せた



『寒いか?ここにきて一段と冷え込んで来たからな』



ユノはそう言って繋いでいた手を解き、僕の背中に腕を回す
手を解かれる寂しさよりも大きな、彼の温もりを貰った



「ユノ…仕事は楽しいですか?」



心地よい温もりに包まれて、ふと聞いてみたくなった



忙しい中でも、ユノが少しでも楽しさを感じてくれていれば嬉しい
そう思って、彼に尋ねる



『そうだな…楽しい、と言うよりさ。嬉しい、かな』



ユノはそう答えた
嬉しい…それはどういう意味なんだろう



その意味を尋ねる前に、森を抜ける
穏やかな陽射しを受けてきらきらと光る星鏡の湖が
今日も静かに僕らを出迎えてくれた



ユノが桟橋に繋留されている舟の縄を解き、先に舟へと乗り込む
舟の上から僕に向かって手を差し出した



差しのべてくれる彼の手を見つめる
僕はこの手を取らないで、生きていく事が出来るのだろうか?



ううん…
あの時僕と共に苦しみ、共に生きてゆく事を選んでくれたこの人の手を取らないなんて…
出来っこないんだ



僕はユノの手を握り、そのまま胸に飛び込んだ



『うわっ!危ないってば、チャンミン。
こんな小さな舟が傾いたら、すぐひっくり返るぞ』



僕はユノの胸にしっかりと抱きとめられたけれど
白い小舟はぐらりと大きく揺らいだ



「舟が沈んでも…僕を助けてくれる?
それとも、湖の底まで一緒に沈んでくれる?」



こんな面倒くさい質問をする僕は…
きっとユノを困らせてしまうって自分でも分かってる



それでも、聞きたかった



『チャンミン。俺は前に誓ったはずだ。
愛しているから、チャンミンと共に死ぬ事も厭わない。

でも、俺はさ
どんなに水が冷たくても、服がまとわりついて泳ぎにくくても、泳ぎが下手くそでも…

おまえを腕に抱いて、必ず水面に這い上がるよ』



小舟の上で僕を自分の足の間に座らせたユノは
そう言って僕のこめかみに口づけた



僕は、やっぱりこの世で一番の幸せ者みたい…
愛しい人のこの上ない言葉を胸に再び刻む



ユノは今、どんな顔をしているんだろう…
背中に伝わるユノの動きを感じ取る



きっと…自分の言った言葉に照れて、顔を赤くしていると思う



それを感じ取らせまいと大きく咳払いをしてから
彼はオールで大きく水をかき、星鏡の湖に舟を漕ぎだした







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