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華筏 第2章 ~星鏡 最終話~
2017-03-13 Mon 18:00


このお話はフィクションです






あれから三月が過ぎた



人間というのは忙しくしていると
やたらと月日が経つのが早く感じる様で



気づけば一日が終わり
気づけば一週間が過ぎ去り
気づけば一ヶ月が経っていた



久しぶりの大作が仕上がった僕は何かと慌ただしい毎日だったから
きっと、いつも以上にそう感じたのだと思う



多分ユノも…
父の元に移ってから新しい仕事を覚えたりで
こんな風にあっという間に一日が終わっていたのかもしれない



僕の新作のお披露目は
父が亡き母と僕への償いという名目で建てた美術館で行われることが決まり
館長を務める次姉が、その段取りを仕切っていた



僕はというと
忙しい合間をみては“僕の家” へと帰っていた



母を亡くした時に「これからはずっと一人で生きていくんだ」と思ったけれど
僕の家には、僕の “家族” が待っていてくれるから自然と足が向くようになって



ユノの先輩であるヒチョルさんに頼んで作ってもらい、手土産で持って帰ったティラミス



それを気に入ってくれた継母は、僕の顔を見ると
〈そろそろ食べたいと思っていた所よ〉と出迎えてくれる



優しい言い方ではなかったけれど



〈ゆっくりしていきなさい。あなたが好きだというワインを用意させてあるわ〉



そう言いながら車椅子で戻って行く継母にも、僕は心から感謝していた



ユノはユノで何か新しく取り掛かっている事でもあるらしく
時折、終電に間に合わず運転手付きの父の車で帰って来ていた



『会社に泊まります、って断ったんだけど。
私がチャンミンに叱られるから、と言って俺を車に乗せた後ご自分はタクシーでお帰りになるんだよ』



出迎える僕へ、そう言って微笑むユノ



僕とユノとの関係を僕の知らないところで認めて、以来ずっと見守ってくれている父
母に会いに来なかった父を恨んだ事もあったけれど、それももう随分前の事みたいだ



父と長姉、ユノが居る会社だけは行かない様にしていた
父が母を犠牲にして守り抜いたその会社は、僕が働くことも無いし



変な意識だけれど、男の戦場という場所に
その戦いに参加しない者が足を踏み入れてはならないという気持ちがあった



亡き母も、父が会社という戦場で必死で戦っている事を知っていたからこそ
自らの存在を消す様に、この地を去ったんだと思うから



僕も
父に見込まれてユノが一人で戦っている所には行かないって決めたんだ



母と同じように
ユノを支えて、静かに待つ事を選んだ



最近、継母も長姉も
僕が行くと何かを話すわけでもなくても、自室に引き揚げずに居間に居てくれる



父と継母と二人の姉
唯一血の繋がりのない継母とも、二人の姉を通してもっと違う何かで繋がれる気がしていた



僕は、変わった



こんな風に前向きになれるタイプでは決してなかったのに



〈そろそろあの湖の氷も溶けた頃かしら?〉



この日も
いつもの様にヒチョルさんが作ってくれたティラミスを食べながら、静かに本を読んでいた継母が呟く



「あ…そろそろでしょうね。
今年は絵が完成して忙しい時が重なって、凍ってからは足が遠のいていました」



僕が父から与えられていた郊外の家は、もともと別荘にして使っていたらしいから
継母も星鏡の湖を知っているんだろう



〈昔ね。お転婆だったこの人は、あそこで舟から落ちて大騒ぎしたんですよ〉


〈お母様っ、そんな昔の事を…〉



同じように本を読んでいた長姉が驚いて顔を上げる



ユノは仕事が片付かない様で土曜日の今日も朝から出社していたけれど、長姉は遊びに来た僕を玄関で出迎えてくれた



どちらかというと
父に反発して会社には入らずに自分の好きな様に生きていた次姉の方が、そのエピソードには相応しい気がする



〈あそこの湖の奥にね、この人達が秘密基地にしていた場所があるんですよ。
…きっと、あなたにも忘れる事が出来ない場所になるでしょう〉



継母が話す事が、僕にはちんぷんかんぷんで
それを聞いていた長姉は慌てて継母を制した



〈お母様、チョンピョンの別荘と勘違いなさってるわ。
さ、そろそろお薬の時間ですからお部屋に戻りましょう〉



そう言って引き揚げた二人を見送ってから、僕も家を後にした



明日にでも、湖を見に行こう
溶けていれば夜もう一度見に行って、久しぶりの星鏡本来の姿を見たいと思った






夜遅く帰って来たユノ
疲れていても、やっぱり僕には甘くて
自分がお風呂に入る前なのに、濡れている僕の髪を乾かしている



「ユノ、明日は休めるんですか?今日ね、家で星鏡の湖の話が出て。
そろそろ溶けただろうから見に行こうと思っているんです」



『えっ?あっ、どうだろうな。今年は寒いからまだじゃないか?じゃ、俺も風呂入ってくるわ』



ユノはなぜかしどろもどろにそう言うと、ドライヤーを放り出したままさっさとバスルームに行ってしまった



???
ドライヤーを持って行けばいいのに…自分でバスルームから持って来たのにね
ユノはたまに慌てん坊の癖が出る時があるから…



そんな所も、僕は好きなんだけれど



土曜の夜は夜更かししてもいい
日曜の朝は僕らの元にゆっくり訪れてくれるから
そう思って二人でベッドに入り、久しぶりにユノの厚い胸に抱かれて目覚めたはずの僕は



朝、起きたら一人ぼっちだった



急な仕事でも入っちゃったのかもしれない…
そう思い直し、つきかけた溜め息を我慢して服を着替えた



朝食を簡単に済ませると、僕は薄手のコートを羽織り星鏡へと足を向ける
湖の氷が溶けたのかも気になったけれど、昨日継母が話していた秘密基地を探してみたかったんだ



暖かくなってもまだ朝は冷え込んでいて
コートを羽織ってきて良かった…と思いながら森の中を進んで行く



「うわっ、眩しい……」



数カ月ぶりに僕を出迎えてくれた星鏡は
冬の間硬い氷に閉ざされていた分を取り戻すかの様に、その水面目一杯に朝日を受けて輝いていた



周辺の樹々もまた春を待ち望んでいた様に
それぞれの春の色を蕾へ付け始めている



僕の次の作品には朝日を受けて眩いばかりの美しさを見せる、この星鏡自身の姿を描こう…そう思った



美しく光り輝く湖を愛でながら、辺りを見渡して昨日聞いた秘密基地の手がかりを探る
僕が来た道の反対側に小径があることに気がついた



今まで気づかなかったのはきっと、しばらく誰も通らなかったからじゃないのかな



僕が気づいたのは、最近ここに人が出入りしているから周囲が踏み固められて
道の形状がはっきりしたからだろう



細い小径を歩いてゆく
“秘密基地” と聞いていたからか、子供の頃に戻った様に何だかわくわくしていた



道を抜けるとそこには
古めかしくもきれいに手入れされている様子の小さな建物があった



金色のドアノブがついた扉に恐る恐る手をかける



『待ってたよ。チャンミン』



むせ返る様な花の匂いの向こう側には



朝日に照らされていた星鏡の湖と同じ様に
キラキラと輝くステンドグラスに照らされるユノがいた



「ユノ…どうして?ここは何?休みだったのにどうして黙って居なくなったの?」



やっぱりワガママが出てしまう僕は、矢継ぎ早に質問責めにしてしまう
せっかくの日曜、二人で一緒に目覚めたかったから…



『ごめんな。予想外の展開だったもんで、俺も慌てちゃって』



理由を話してくれているんだろうけれど
その内容も全然飲み込めなくて



ステンドグラスの光を受けて立っているユノに気を取られていて気づかなかったけど
側に近づいて初めて、ユノの奥に掛かったキリストの姿が見えたんだ



「ここ…教会だったんだ」



古めいた椅子は、よく見れば確かに教会によくある様な長椅子で
そして、僕が気づかず歩いて来た通路には匂い立つ白百合が飾られていた



『チャンミンの新しい作品が仕上がった時に、言うと決めていた事がある。
そのためにお父さんに許可を得て、ここに通って手入れをしていたんだよ』



きれいすぎるワイシャツは、ここに来た後すぐ作業着に着替えていたからだと言ったユノ
ここで作業をしてから会社に行って仕事をしていたせいで、一日中働いてる様になっていたらしい



「んもぅ…。なぜ僕に話してくれなかったんですか?ユノはいつもそうやって…」



文句を言う口は、彼の唇に止められてしまう
ユノはズルい。いつもこうやって僕の文句を聞かないんだ



『チャンミナ。叱言は後からゆっくり聞くから。
俺の晴れの日なんだからさ、ちゃんと言わせて?』



ユノはそう言って僕の両手を自分の両手で抱えた



『シム・チャンミンさん。
あなたの絵に色をつけて来た俺に…

これからは、あなたの人生へと色をつけさせてください。

俺と…永遠を誓ってください』



「ユノ…?何…どうして…僕は…」



『ああっ!もう!!俺ってば柄にもなくカッコつけるから…

チャンミナ、俺と結婚してください!って事が言いたかったんだってば!』



うふふ
カッコつけてなくても、あなたは最上級に素敵なのにね
そんな自然体のあなたも大好き







一人ぼっちでソウルへと帰ってきた僕を見守って来てくれた星鏡



今、その湖は僕を
両手を広げて受け止めてくれる



夢を見ているんじゃない
僕を包み込んでくれるこの人の温かさが、それを教えてくれた



永遠を、誓います
人生に、たくさんの色をつけていきましょう



ユノ…



これからもずっと一緒に
四季の色を、共に愛でながら生きていこうね






星鏡 −完−





最後までご覧下さりありがとうございました



Ali様

貴女が好きだと言ってくれた華筏の儚い美貌の人を、幸せに書く事が出来たでしょうか?

本来ならばもっと時間をかけてゆっくり仕上げたかったのですが、途中休止を挟んだ挙句
再開後は愛犬の件で私の余裕が無くなってしまったので、急展開になってしまったと思います

いずれまた、機会があれば書ききれなかった二人の幸せを書きたいと思います

この作品を私の今までの、精一杯の感謝として受け取って頂ければ幸いです

ゆんちゃすみ






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華筏 第2章 ~星鏡 15~
2017-03-06 Mon 18:00


このお話はフィクションです






久しぶりの大作へと本格的に取り掛かった僕は
一日のうちの半分以上を、アトリエで過ごした



色が分からないからといって妥協はしたくない
迷った時は、夜遅くても愛しい人の帰りを待つ



僕の “色” となってくれるユノの帰りを…



彼が自らの星鏡に映った色彩を再現しようと
パレットに絵の具を合わせているのを見つめる



今日もユノの帰りを玄関で待ち構えていた僕は
スーツの上着だけ脱いだ彼の手を引っ張ってアトリエに急いだ



『こんな色だったんだ。星鏡の湖がさ、ほとりから凍り始めてただろ?
その氷に映った夕焼けが…絶妙の色でね

チャンミンが書いたデッサンも、そこの部分だけが強調されてる様に見えたから』



きっとユノは仕事で疲れてると思う
今夜も終電で帰って来たから



それなのに
真っ白なワイシャツの袖をまくって
僕のために絵の具を何度も合わせては捨てるという作業を繰り返す



「ユノの目にもそう映ったんですね。
僕のモノクロの世界でも、星鏡の湖がその淵から
燃え始めている様な錯覚を覚えたんです」



キッチンへ降りていき、ユノのために作っておいた夕食のスープを運んで来た僕
そう伝えながら、彼の脇に置かれたミニテーブルにスープ皿を乗せた



『いい匂いを嗅がせておいて
お預けさせるつもりだな、チャンミンめ』



そんなつもりはなかったのに…



「ユノ、そんなつもりは…」と言う側から
顔を引き寄せられて、いきなりキスをされる



『こっちの方のお預けは無理だからね』



…んもぅ



僕としては、スープが冷める前に食べて欲しいのに
ユノにキスなんかされたら、僕の方が冷めなくなっちゃう



『さあ、どうかな。
この色は…深くて、その上鮮やかな緋色だ』



きっと
あなたのふっくらとした唇もそんな色なのかな
炎が空気を取り込んで勢いをつけた様な、そんな鮮やかな緋色…



一日を終える時、日は沈んでゆく



でも



きっと、ここに沈んでゆく太陽は
朝、昇ってくる時よりも激しく燃えている感じがしたんだ



次の日、再び同じ姿を見せるために
なお、自らを燃え上がらせてる様な…



僕は、今の自分の気持ちを星鏡の湖に打ち明けた
その湖が、僕の想いを自らの水面に描いてくれた気がする



「ユノ…あなたは僕にとっての星鏡の湖なんです。
この絵は、あなたとの未来を映した作品になると思います」



色が入っていない最後の空白部分に筆をおき、彼に伝える
描くことを諦めていた僕の…新しい作品の完成だ



『おめでとう、チャンミン』



ユノは自分の格好も気にせず、ぎゅっと僕を抱きしめてくれる



いつもかっこよくてシャープな雰囲気の彼と同じように
夜になるまでパリッと型が崩れないワイシャツにたくさんの絵の具を散らして



『俺はね、チャンミン。〈華筏〉というチャンミンの絵を始めて見た時さ。
華筏を作っていた花たちの流れゆく先には…何があるんだろうって思ってた。


…きっとこんな夕陽が、その花たちの終焉を見届けてくれてたんだって、今わかった気がする』



花々の葬送



そう言うと、不吉な意味合いが濃くなるけれど
人もまた、その人生の終焉を迎えた時には
花たちと同じような葬送で送られ後、次の世に生まれるための準備をするのかもしれない



僕が描いた花たちは
次に生まれ来る時も花でありたいだろうか



僕は
次に生を受ける時もまた、この人と出逢いたい…



そう思いながら
いつものスペースへと自分の名前を刻んだ






〈今までの事を許して欲しいとは言いません。
世の道理に反していたのは、不倫という道を歩いていたあなたの母親の方だからです〉



僕は今日、初めて父親の家に足を踏み入れている
そこで迎えた父の本妻…姉さんの実の母親から、そう言われた



「分かっています。それが当然のことです。
むしろ、母が生きていたら僕は一緒に頭を下げていたと思います」



父親のたっての願いで、僕はシム姓を名乗る様になったけれど
いわゆる妾の子であることは紛れも無い事実で



母がこの人から夫の心を奪った事も事実で
その証として、僕がこの世に生を受けたんだから



〈でも、あなたはこの家の人間です。
シム・ミョンミンの長男であることを忘れずに生きていくように〉



僕を最初から弟として迎え接してくれた次姉が
自分の母親の言葉を聞いて、向かい合わせに座っている僕へと頷いた



「はい。決して忘れません。二人の姉も、僕には大切な姉弟です」



今まであまり接点のなかった長姉はどこか所在なさげだったけれど、そう言った僕に微笑んでくれる



元から父の会社で働いている長姉
ユノが財団法人から本社に移動して働く様になってからは、時折僕へと土産を持たせてくれていた



僕はそんな長姉にも、次姉へと同じように畏敬の思いを持っている



血が繋がってるんだ
全部じゃなくても、それは何より大きな事実



母が亡くなってから、ずっと一人ぼっちだと思っていた



でも
ユノに出会って…かけがえのない存在を得た事が
僕にこうして“家族”をも、もたらしてくれた



〈ここは、あなたの家です。時折帰って来るように〉



書面上は、義理の母になっている父の本妻
そう言ってくれるだけでも…僕にとっては、十分すぎると思う



「はい…そうします…」



肺を病み、療養生活を送っている義母は
席を立ちお辞儀をする僕へ
〈ゆっくりしていきなさい〉と言ってから部屋へ戻っていった



いつかはしなければならないと思っていた事が、こうして出来たのも
僕の隣に座るこの人が居てくれたからだろう



『チャンミナ、頑張ったね』



小声でそう言ってから
テーブルの下で、そっと僕の手を握ってくれる
ユノが居たから…



〈待たせて済まなかったね。
急ぎの用事が出来てしまったのでな〉



義母と入れ違いに入ってきた父が
僕とユノを交互に見て、自分の席へとついた



〈チャンミン。おかえり〉



ここはあなたの家です、と義母が言ってくれた様に
父もまた、そんな風に僕に声をかけた



「ただいま…父さん…」



ユノが握ってくれた手にぎゅっと力を込めて
僕は初めて、そう言ったんだ







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華筏 第2章 ~星鏡 14~
2017-02-27 Mon 18:00


このお話はフィクションです
BL表現を含みます
ご注意ください






ユノの愛を
身体の一番深いところで受け止めた僕は…快楽のそれと同じくらい心も満たされる



彼を愛し過ぎているから、この人と何度身体を繋げても足りない…
そんな欲張りな自分が恐ろしかったけれど



今夜の僕は
星鏡の湖に報告した自分の小さな成長のおかげか



僕だけへと注がれるユノの愛を
この上ないくらい、堪能していた



髪を洗う彼を残し、先にバスルームを後にする
指が…描く事を欲していたんだ



バスローブ姿のまま、アトリエに飛び込む



描きたかった残りの部分がうまくまとめられず
何度も描き直してそのままになっていた100号サイズのキャンバス



何かに取り憑かれたかの様に木炭を手にして、残りのデッサンをあっという間に仕上げる



湖の水面を燃え上がらせた夕陽を…描きたかった



花々がその終焉の美しさを競い合う姿を描いた、僕の代表作「華筏」



その美しさのキャンバスだったのがあの星鏡の湖だ



夕陽を映し出した星鏡の姿は
華筏のキャンバスだった時の「静」ではない「動」の美しさだった



僕の大切な人であるユノの瞳の様な僕の大切な場所



その場所に映った新しい美しさ
それを僕の記憶として自分の手で描きたかった



『さあ、色をつけようか』



炭で汚れた僕の手を、包み込むようにして濡れタオルで拭ってくれたユノが言う



いつの間にかお風呂から出てきて
集中してデッサンを仕上げる僕の姿を、後ろから見ていたんだろう



暖房が効いているから、僕はバスローブ姿のままだったけれど
ユノもまた、僕とお揃いのバスローブを纏ったままで



彼の首筋はまだ
シャワーのお湯の温もりを残したまま、ほのかに湯気を出していた



「星鏡の湖の…新しい姿だよ」



僕の手を拭ってくれた後
そのまま背後に回って、僕を抱きしめる様な体勢でキャンバスを見つめるユノに言う



『さっきと同じシチュエーションだね、チャンミン』



濡れたままの僕の髪に顔を寄せ、耳元でそう囁くユノ



湯気を立てるユノの温もりが、すっかり湯冷めしてしまった僕の身体を温めてくれる状況は
さっき湖のほとりで抱きしめられた時と同じで



そして、目の前のキャンバスに僕が描いた湖が



さっき二人で眺めていた星鏡の見事な夕焼けを
どうやらユノにも合格が貰えるくらい再現出来ていたらしく
ユノは、そう言ってくれたんだと思った



「あなたの見た色を…僕に乗せてください」



右手でユノの顔を引き寄せ、そっと口づける
甘く柔らかいユノの唇が僕のそれをしっかりと捉えて、食む様に応えてくれる



『まるで炎が燃えているみたいな色だったんだ…
俺のさ。チャンミンへの想いを湖が形にしてくれたのかな』



ユノのバカ
そんなキザな台詞をどこで覚えてきたの?



ユノはズルい
自分で言ったくせに、照れて顔を背けるなんて



僕に、見せて
あなたのその想いを
僕が、描くから
あなただけのために



顔を背ける彼の顔を、今度は両手で引き寄せる
甘噛みするみたいな口づけを、ユノの全てを奪いつくすみたいな激しいものへ変えてゆく



この絵は…僕と彼の愛の証



僕の想いをデッサンして
ユノの想いを色付けて



そして、一枚の作品へと姿を変えるんだ



僕というキャンバスにユノが色を乗せてゆく
彼の唇が指が、木炭と筆になって



産毛を撫でる様な軽いタッチが僕の胸の控えめな突起を往復する



それだけで、身体がひどく熱くなってくるのは
僕の絵が、描いた主をユノへと捧げているからかもしれない



ユノと初めて口づけを交わした時も
僕はこうして自分の書いた作品の前で
ユノと自分の絵に絡めとられたんだ







『チャンミン…この絵が出来上がった時、チャンミンへ伝えたい事があるんだ』



両手で戴くようにして僕の指に口づけたユノが、そう告げた時



最奥へと再び注がれた彼の深い愛の余韻で
僕の身体は小さく波打ったまま、その声を遠くで聞いているみたいだった








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華筏 第2章 ~星鏡 13~
2017-02-20 Mon 18:00


このお話はフィクションです
R18要素を含みます
ご注意ください






氷を張り始めた夕刻の湖が
いつもと違う色で僕を迎えてくれる



僕の目は…色を映さないけれど
眩しいくらいの夕焼けをその水面へと映している様は、遠い日の記憶を蘇らせてくれた



鮮やかなオレンジ色の夕陽は
静寂の似合う星鏡の湖を一変させる
そう…情熱的な炎を燃え上がらすかの様に…



小さな決意を携えて訪れた僕を
遠い日の記憶に残る鮮やかなオレンジ色が後押ししてくれる気がした



ユノの世界を、僕も共有したい
僕の目の代わりになってくれたユノが、僕の世界を共有してくれている様に



いつまでも小さな世界に留まって生きるのではだめだ…



大好きな人と出会えたのだから
その人の世界を共有して、共に生きて行く方が二倍の幸せを味わえる気がした



ふふ…やっぱり僕は欲張りなんだ



今でも十二分に味わっているユノとの幸せを
更に倍にしようと言うんだから…



画家である僕が〈色〉を失った時の絶望から立ち直らせてくれたのは、従兄と姉の二人だった



今回味わった言い様のない不安には、僕はどうやら一人で立ち向かえた様で
そんな小さな前進も、大きな収穫となる



それがやけに嬉しくて
目を閉じ手を組んで、湖へと祈りを込める



不安な心の葛藤にも、一人で立ち向かえる様になったと
僕を静かに見守ってきてくれたこの湖へと報告をするかの様に…



夕焼けを映し出す星鏡の湖が、まるでオレンジ色の水面でふわっと包み込んでくれたみたいな…
急にそんな温もりで覆われた



『チャンミナ。ただいま』



愛しい人が
ユノが僕を背後から抱きしめていた



「ユノ…おかえりなさい」



胸の前で重ねられる彼の腕に、僕も自分の腕を上げ合わせる



僕の祈りが届いたんだろうか…
僕の小さな成長を祝うかの様に、愛しい人がこんなに早く帰って来てくれた



この人は、僕の湖だ



僕を見つめる夜の星鏡の湖の様なその瞳
僕を夕焼けの様な温かい色で包み込んでくれる腕



そして、僕の心を支えてくれる広く大きな胸…



「ユノ…星鏡の湖の夕陽は、あなたの目にどんな色に映ってるの?この色を、僕に描かせてくれる?」



今の気持ちを、キャンバスに残したかった
これからの僕が描く作品は全て、この人との愛の証になるから



『家に帰ってアトリエに行こう』



会社から帰って来て家でコートを脱いだ後
僕が見当たらなかったからスーツ姿のまま探しに来たんだろう



そう言って僕の手を取る彼の手は
すごく冷たかった



「その前にまずは…お風呂で冷えた身体を温めて」



そう言ってユノの手に口付ける
唇にも彼の手の冷たさが伝わってくる



その冷たさは
僕の事を想ってくれるユノの心の温もりと正比例しているんだと思った



『そうしよう。星鏡の湖に映る今日の夕焼けの色は、すごく情熱的な朱だったけど…
チャンミンの心の色を映してるのかな?』



ちょっとだけイジワルな顔をして
その柔らかい唇で、僕の口を塞ぐユノ



ズルい
そんなことをされたら、僕は…







玄関に辿り着くや否や
その口づけは、深く激しいものへと変わってゆく



僕には見えるはずのない夕焼けの朱がそうさせたんだろうか…



ユノの目に映ったであろう炎の様な朱が、彼の舌にも移っているかの様で
僕はそんな情熱的なキスを受け、立っていられなくなる



『チャンミナ…』



僕の腰を引き寄せ、支えてくれるユノの身体もまた
さっきの冷たさが嘘みたいに熱くなっていた



二人の身体がもつれるようにしてバスルームへと移っていく
どうやってお互いの服を脱いだのかも分からないくらい、あっという間の出来事だった



「ユノ…」



こんな時の僕は彼の名を呼ぶのが精一杯で
ユノの指や唇に思考を混濁されられてゆく



少しぬるめのシャワーでも逆上せてしまう程のユノの熱
彼に重なりながら壁に追いやられても、タイルの冷たさがむしろ心地良い



腰に添えられた手がゆるく滑り落ちて窄まりへ辿り着いた時にはもう
僕の身体は全身で愛しい人を求めていた



ユノが僕達に降り注ぐシャワーを止める
僕の顔にかかっている雫を指で拭ってくれるから
僕はユノの頰の雫を舌で掬う



それが合図だったかの様に
僕を求めていたユノ自身が、僕の身体の中へと入ってきた



この人のことを身体が全部覚えているみたいで
彼が腰を押し進める度に、僕のそこはカタチを変えながら迎えてゆく



「あぁ……」



僕の一番深いところで、彼の想いを感じ取る
ユノは僕の耳殻を軽く食みながら、ゆっくりと身体を動かす



それは



自分の快楽を導き出す様な激しいものではなく
僕の身体の中に居る事を満喫する様な…そんな感じがした



『チャンミンの中はすごく熱いよ…』



僕の頭の中を見抜いているみたいにユノが言う



「ゃ…そんなこと…」



間近で僕を見つめるユノの目が、言葉で僕の反応を楽しんでいるみたいで



…すごく、艶かしかった



『目の縁の色だ…星鏡の湖の朱と同じ色だよ』



ユノの舌が僕の目の縁を這う



言葉だけではなく、そんな行為もまた僕を追い詰めてゆく



「ユノ…もう…お願い。僕、ダメみたい」



上げていた片脚を曲げて、彼の腰を抱え込む
僕の中のユノが…質量を増したのが伝わってきた



『チャンミン……』



苦しそうで切なそうな声をあげながら
ユノは…僕の腰をグッと引き寄せた







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華筏 第2章 ~星鏡 12~
2017-02-11 Sat 18:00


このお話はフィクションです






ユノと久しぶりにゆっくり過ごせた休日
あの日、星鏡の湖へ舟を出した時に言っていた通り



湖は程なくして、そのほとりから薄氷を張り始めた



あと半月もすれば一面が氷で覆われて
いつにも増してひっそりとした静寂に包まれ、ただひたすら春の訪れを待つようになる



「仕事は楽しいか」と問うた事に
『楽しいと言うより嬉しい、かな』と答えたユノ



その真意は聞けないまま
彼は再び仕事に追われる日々に戻っていった



帰宅が深夜になることもしばしばで
僕は、隣に出来ている冷たい空間に触れながら
一人でベッドに横になる毎日が続いた



彼と想いを通わせ、共に暮らし始めたあの頃は
こんな風に一人でいる時間が主になるなんて思っていなかった



でも
現実は現実として受け止めなければならない



僕の家で一緒に暮らすようになったけれど
それはただ、居住空間を共にしただけだ
それ以外のユノは、僕が知らない空間での新しい道を歩み始めた



前の会社が倒産するという悲劇の最中、出会ったユノと僕
その後、僕との交際を父に認めてもらったユノは、父の元で働き始めた



僕の居ない場所で、ユノの新しい生活が始まったという事実
僕の知らない、ユノの時間…



そんな時間が存在することさえも厭わしいと思ってしまう



わかってる
全部僕のワガママだって事も



ユノが好き
好きっていう言葉では言い尽くせないほど



彼を知れば知るほど、僕はのめり込んでしまい
好きになればなるほど、僕だけのものでいて欲しい



僕は、ワガママで欲張りだ



この家にあの人を閉じ込めてしまいたい
そんな事まで脳裏をよぎる自分が恐ろしくなる



こういう時は…決まって筆も走らない



先週から下書きを始めていた新作
キャンバスに向かっても木炭は宙に浮いたままで
僕は溜息をひとつ吐いて用品を片付けた



僕の気持ちを慮ってか、今日は空もどんよりとしている
この感じでは今冬初めての本格的な雪が降るかも知れない



星鏡の湖のあの美しい水面が姿を消してしまうから…僕は冬が嫌いだった



ユノと始めて一緒に迎えた冬は
そんな僕を一転して冬好きにさせた



星鏡が見られない寂しさを彼が消してくれただけでなく
冬の夜の長さというものが、彼の腕に抱かれて過ごす幸せを満喫させてくれたからだ



「冬なんか…嫌いだ…」



どんよりとした空模様を睨みながら呟く
ユノが居ない冬の夜は…今度はその長さが寂しさを増幅させるから



アトリエから出て一階に降り、リビングに入る
気分転換にこの前貰ったハーブティーでも淹れよう



「寒っ……」



人気が無かったリビングは暖房を入れても直ぐには暖まらない
セーターの袖を伸ばしてその中に手を縮こめて
自分の息で、冷たくなったその白白しい手を暖めた



ユノは今頃どうしてるのかな…
仕事場は、どんな感じなんだろう…



頭の中は、やっぱりユノの事だらけで



〈そのうちユノ君についての研究論文でも書きそうだわ〉



そんな事を言って姉さんに笑われた事を思い出した



父さん…
そんな風にまだ呼ぶことは躊躇う間柄だけれど



亡くなった母と、手元に置けず苦労をさせた僕への罪滅ぼしという名目で
父が作った美術館を運営する財団法人



母を失い外国から単身でソウルに戻ってきた僕に、肉親の中で唯一接点を持ってくれた二番目の姉はそこで代表を務め、ユノも当初はそこで働いていた



今年秋の異動で、ユノは父直属の部署に配置されたとだけ姉から聞いていたけれど
詳しい事は誰も何も教えてくれなかった



そこに何か深い理由あるのか
それとも、特段言う必要がないと判断されて教えて貰えないだけなのか…



そういうことを考えてしまうと僕の悩みは一層深くなってしまいそうだから、考えるのはやめていたけれど



この間から
僕の心の中に、うまく言葉で説明出来ない正体不明の闇が作られて



その闇が、気にしない様にしていた事も再び掘り返してきてしまう



姉さんにそれとなく聞いてみようか?
僕にはその程度しか手段もないんだけれど



まさか此の期に及んで
名ばかりの父親を訪ねて行くわけにもいかないだろう…



ユノと出会い彼と恋に落ち
それをきっかけにして父とも初めて会った



初めて会った父は
自分の中に流れる血をその見た目で感じるくらい似ていたけれど



それを嬉しいと思えない事情が僕には根深くある



本家…
父達が暮らしている家にも、もう何度となく呼ばれているけれど足は向くことは無い



二番目の姉が居るとはいえ、本妻の長女であり父の会社で本部長を務めているもう一人の姉と
その母親である父の本妻がいる家に、どうして僕が行けるだろうか



二番目の姉いわく、僕が母のお腹にいた頃に会社の相続者争いで立場が危うかった父も
その争いに打ち勝ち、会社をこの国で一二を争う様な大企業に創り上げた事で



本妻の発言も一切抑えられる様になったらしく、僕を正式にシム家の長男として迎え入れることに同意しているとの事だけれど



僕は……



このまま一人、殻に閉じこもる日々を送っていて良いのだろうか?



最愛のユノは今、その父の元に居るのだから
僕もまた、少しずつ新しい世界へと足を踏み出していかなければならないんじゃないか?



僕が父を拒絶しなければ
その側にいるユノにも、更に良い影響をもたらすことができるかもしれない



そんな風に思った僕は
星鏡の湖が見たくなり、コートを羽織った



完全に凍ってしまう前に
僕のそんな小さな決意を、湖の水面に聞いて欲しかったんだ



来年の春
美しい華筏を見せる為、少しずつ硬い蕾を準備する樹木の様に



僕もまた
少しだけでも、何かを芽ぶかせたかった







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